パズル小説「怪人二十面相」はしがき

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パズル小説 怪人二十面相 謎解きクロス®

■パズル小説は、言葉のジグゾーパズル『謎解きクロス』を使って展開する短編小説です。パズル小説の「ゴシック体」に注目し、言葉の破片を解答欄に埋めていきます。ABCDEの文字を並べると解答になります。

■このパズル小説は江戸川乱歩作「怪人二十面相」を元にパズル化しました。

■はしがき■

そのころ、東京中の街という街、家という家では、ふたり以上の家族が顔をあわせさえすれば、まるでお天気の挨拶でもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。

「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな盗賊のあだ名です。その賊は二十のまったく違った顔を持っているといわれていました。つまり、変装が、とびきり上手なのです。

どんなに明るい場所で、どんなに近よってながめても、少しも変装とはわからない、まるで違った人に見えるのだそうです。老人にも未成年の若者にも、富豪にも貧乏人にも、学者にも無頼漢にも、男性から女性まで、まったくその人になりきってしまうことができるといいます。

では、その賊のほんとうの年はいくつで、どんな顔をしているのかというと、それは、誰ひとり見たことがありません。二十種もの顔を持っているけれど、そのうちの、どれがほんとうの顔なのだか、だれも知らない。いや、賊自身でも、本当の顔を忘れてしまっているのかもしれません。

それほど、たえず変化をしている顔、違った姿で、人の前にあらわれるのです。いや、そんな安易世界だけではなく、二十面相がメスシカになったと聞いても、違和感はありません。

そういう変装の天才みたいな賊ですから、警察でも困ってしまいました。いったい、どの顔を目あてに捜索したらいいのか、どんな見た目なのか、まるで見当がつかないからです。もちろん賊の住処(すみか)も東京なのか、大阪なのか、あるいは日本ではなく海外なのかも、わかりません。

ただ、せめてもの幸せは、この盗賊は、宝石だとか、美術品だとか、美しくて珍しくて、とても価値のある品物にを感じ、それを盗むばかりで金貨なら盗むけれど現金には、興味を持たないようなのです。それに、よく聞くような賊たちと違って、人を傷つけたり殺したりする、残酷なふるまいは、一度もしたことがありません。きっと血が嫌いなのです。

しかし、いくら血が嫌いだからといって、悪いことをするやつのことですから、自分の身が危ないとなれば、それを逃れるためには何をするかわかったものではありません。盗みに入ったら手ぶらで帰るわけにはいかない意地もあるでしょうから、東京中の人が「二十面相」の噂ばかりしているというのも、実は、怖くてしかたがないからです。

ことに、日本にいくつという貴重な品物を持っている老舗の宝石店の店主や富豪などは震えあがっていました。今までの様子で見ますと、いくら味方の探偵や警察へ頼んでも、防ぎようのない、おそろしい賊なのですから。

 

この「二十面相」には、一つの妙なクセがありました。何かこれという貴重な品物を狙いますと、かならず前もって、いついく日にはそれを奪いに参上するという時間を指定した予告状を送ることです。賊ながらも、不公平な戦いはしたくないと心がけているのかもしれません。しかも決めた日時は、遅延したことがありません。いくら用心しても、ちゃんと取ってみせるぞ、おれの腕まえは、こんなものだと誇りたいのかもしれません。へら、へら、笑っているのかもしれません。いずれにしても大胆不敵、傍若無人の怪盗といわねばなりません。

このお話は、そういう出没自在、神変(しんぺん)不可思議の怪賊と、日本一の名探偵・明智小五郎との力と力、知恵と知恵、火花をちらす、一騎うち、に横にとびうつる大活劇であり、大闘争の物語です。

大探偵・明智小五郎には、小林芳雄という少年助手があります。この可愛らしい小探偵の、リスのように敏捷な活動も、なかなかの見ものでありましょう。

さて、前おきはこのくらいにして、いよいよ物語にうつることにします。

■特別ヒント「未成年:ヨコ」「無頼漢:タテ」■

2019年2月1日