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謎解きクロスって何?
謎解きクロスは、ミステリーツアーやミステリーウォークなどのイベントに使われる、謎解きのツールの一つです。
謎解きクロスは、クロスワードのような問題のフレームを活用しますが、そのヒントはエッセイだったり、広告だったり、ミステリー小説だったり、あるいは、街の案内だったりするのです。
このブログでは、謎解きクロスと、ミステリーウォークについて、ヒントや、気づき、これからの方向などを、お伝えしていきます。
お楽しみに。
パズル小説アーカイブ
■謎解きクロス9×9
D坂の殺人事件
原作:江戸川乱歩(底本:青空文庫所収)
現代語・パズル小説化:廣川州伸
編集協力(創作支援ツール):ChatGPT(OpenAI)
共創パートナー(愛称):ワトソンAI君
東京の下町、D坂と呼ばれる界隈は、古本屋や骨董品の店が軒を連ね、いつも雑多な人々で賑わっていた。
僕は学生時代、しばしばこの辺りを歩き回った。書物を漁ることもあったが、それ以上に、人の流れをただ観察することが好きだったのだ。
ある日、僕はその坂道で、奇妙な光景に出くわした。
人だかりの中心に、一軒の古本屋があった。中年の店主が蒼白な顔で外に立ちすくみ、周囲の人々が騒いでいる。僕が耳を澄ますと、どうやら店の奥で若い女が倒れているらしい。息がない、と誰かが叫んだ。
「また事件か……」
そう呟いたとき、背後から落ち着いた声がした。振り返ると、眼鏡をかけた痩身の男が立っていた。どこか浮世離れした雰囲気を持ち、冷静な目で現場を見つめている。
それが後に名探偵として知られることになる人物――【明智】小五郎との最初の出会いだった。
彼は群衆をかき分けて店内に入り、僕も好奇心からあとに続いた。奥の畳の上には若い女が仰向けに倒れており、顔は蒼白で、微動だにしない。店主の話では、さっきまで元気に本を見ていたのに突然苦しみだし、そのまま息絶えたという。
「薬の匂いがするな……」
明智は女の顔に鼻を近づけ、すぐに顔を上げた。
「ここには【湖】に漂うような静けさがある。しかしそれは自然のものではなく、死の静けさだ」
僕はその比喩にゾクリとした。彼の言葉は詩的で、しかも核心を突いているように思えた。
「君はどう思う?」と明智が僕に問いかけた。
突然のことに答えに窮したが、何か言わなければと口を開いた。
「……もしかして、毒ですか?」
「うむ、可能性は高い」彼は頷いた。
そのやりとりを横で聞いていた店主は慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなことを言われてはたまらん。私の店が疑われるじゃないですか!」
「心配はいらない。私は警察の人間ではない。いわば、通りすがりの観察者にすぎない」
そう言って明智は微笑んだ。
「【タダ】の物好きと思っていただいて結構です」
しかし、その物好きの男がやがて日本中を震撼させる名探偵となることを、このとき誰も予想してはいなかった。
店の奥の畳の上で、若い女の亡骸を取り囲む人々は騒然としていた。
警察から駆けつけた巡査が縄を張り、好奇心にかられた野次馬たちを外へ押し戻す。
しかし明智は、まるで自分が当然そこに居合わせるべき人間であるかのように、静かに現場を観察し続けた。
彼は女の衣服の乱れに注目した。胸元に小さな裂け目があり、そこからうっすらと甘い匂いが漂っている。
「毒物を含んだ小瓶が仕込まれていたのかもしれない。だが、どこに隠されていたのか……」
彼は指先で畳をなぞり、細かい埃の付き方まで確かめる。
僕はその真剣な様子に圧倒され、つい尋ねてしまった。
「明智さん、どうしてそんなに冷静でいられるんです? こんなに恐ろしい場面なのに」
明智は顔を上げ、落ち着いた声で答えた。
「恐怖に流されれば、真実を見失います。必要なのは、事実を一つ一つ確かめ、それらを正しくつなぐこと。つまり【筋道】を立てて考えることです」
その言葉は、混乱していた僕の胸にすとんと落ちた。
彼の目には、現場が混乱の渦ではなく、一枚の絵のように映っているのかもしれない。
外では、事件を聞きつけた新聞記者が騒ぎ立てていた。
「今度こそ【大事件】だぞ! 銀行強盗以来の見出しになる!」
その声が通りまで響き渡り、群衆の興奮をさらにあおった。
けれども明智は騒ぎに耳を貸さず、まるで子供が玩具を解き明かすように、現場の細部を組み合わせていく。
「見給え。これは一種の【ジグゾーパズル】のようなものだ」
彼は床の埃、女の指先の向き、机の上に残された茶碗の位置――それらを一つずつ拾い上げ、仮説を組み立てていった。
「断片は小さくても、正しい形で並べれば必ず全体が浮かび上がる。謎解きとはそういうものです」
そのとき、僕は初めて、この男がただの物好きではないことを悟った。
彼の瞳には、死と混乱の現場が、秩序ある物語へと変わっていく光が宿っていた。
巡査が簡単な聞き取りを済ませると、店主は震える声で語り始めた。
「亡くなったのは、近所に住む下宿の娘さんです。ふだんは明るい子で、よく本を買いに来ては世間話をしていったのに……」
彼はそう言って、袖で額の汗をぬぐった。
明智は棚の上や畳の下まで念入りに調べていたが、やがて茶の間に置かれた膳に目をとめた。
「これは……食事の跡か?」
膳の上には湯気の消えた味噌汁の椀と、半分食べかけの【焼き豆腐】が残っていた。
僕は少し場違いな気がして口を開いた。
「こんなものを食べながら本を物色していたのですか?」
「いや」明智は首を振った。
「これは彼女が口にしたものではない。店主、あなたの昼餉では?」
「そ、そうです。ちょうど台所で片付けているときに倒れたもので……」
その横に、小さな菓子皿があった。
中には【餡子】を詰めた饅頭が二つ置かれていたが、ひとつはかじりかけで残されていた。
「甘味は誰が?」と明智が訊ねる。
「ええ、亡くなった娘さんが買ってきて、ここで食べていたんです」
そのとき、天井からぽたりと水滴が落ちてきた。
僕が見上げると、古い天井板にはしみが広がっている。
「店主、これは?」
「すみませんねえ。古い家でして、先月の大雨でひどく【雨漏り】がして以来、まだ直していないのです」
明智は指先で畳に落ちた水滴をすくい上げ、じっと眺めた。
「偶然は時に手掛かりを隠し、また暴き出すものだ。食べ物も、家の傷みも――どんな些細なものでも無視できない」
僕はますます感心した。
彼の眼差しは、どんな瑣末事も事件の糸口として扱う。
そしてその糸を集めて編み上げるように、ひとつの真相へと近づいていくのだ。
事件現場を一巡したあと、僕と明智は店の表に出た。外の通りには、まだ群衆が押し寄せていた。子どもまでが首を伸ばして覗き込んでいる。
「これでは、まるで見世物だな」僕が呟くと、明智は静かにうなずいた。
「だが、人々の好奇心も捨てたものではない。こうした視線が新しい証言を生むこともある」
そう言いながら、彼は群衆の中に入っていき、何人かに声をかけた。
やがて戻ってきた明智は小声で告げた。
「店に入ったのを見た人物が、ひとりではなく二人いたと証言している」
僕は驚いて聞き返した。
「二人? じゃあ、亡くなった娘さんの【他(ほか)】に、もう一人誰かが?」
「その通りだ」明智の目は鋭く光った。
「小柄な男が彼女のすぐ後をつけて店に入ったという。これは重要な手掛かりになる」
僕は心のどこかで、探偵小説の読者のように胸が高鳴るのを覚えた。
「もしや、明智さん。真相の【最果て】まで、すでに見えているのでは?」
半ば冗談のつもりで問うと、彼はふっと笑った。
「まだ断片にすぎない。しかし――私の推理が正しければ、驚くべき展開になるだろう」
その落ち着いた態度に、僕は妙な【期待】を抱いた。
この青年の手にかかれば、どんな難事件も解けるのではないかと。
そこへ、先ほどの巡査がやってきて、汗を拭きながら言った。
「いやぁ、さっきの観察ぶりはお見事でした。まさに【ナイス】アイデアだ。現場の警官には到底できませんよ」
「いえ、私はただ観察をしただけです」明智は控えめに答えた。
だが、その謙虚な態度の奥に、確固たる自信が潜んでいることを、僕は見逃さなかった。
夕方が近づくにつれ、通りのざわめきが落ち着き、町の寺からゆっくりと【鐘】の音が響いてきた。
その低い響きは、不思議と事件の緊張を和らげるようでもあり、逆に死の重さを思い出させるようでもあった。
巡査は店を閉める手配をし、現場を守るために交代の警官を呼んでいた。
僕はふと、自分の服の乱れに気づき、襟を正して【身支度(みじたく)】を整えた。
明智はそれを見て、わずかに微笑んだ。
「君も探偵気分だな」
「いや、ただ緊張を落ち着けたかっただけです」
そう返しながらも、僕の胸は妙な高揚感で満たされていた。
そのとき、通りを行く八百屋の荷車が目に入った。籠の中には紫色に艶めく【秋ナス】が山と積まれている。
「季節の移ろいは、人の営みと切り離せないな」明智がぽつりと言った。
「野菜の色が変わるように、人の心も、運命も移ろう。事件もまた、その一部だ」
僕は思わずうなずいた。
日常と非日常がこうして同じ通りに並んでいる光景は、言葉にしがたい不思議さを漂わせていた。
日が暮れると、通りは一転して静まり返った。薄暗い提灯の灯りの下に立つと、周囲は濃い【闇】に包まれているように感じられた。
明智は腕を組んでしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「この通りで目撃された男の影――それを【認め】た証言が複数ある。やはり、亡くなった娘さんの後をつけてきた人物が存在していたようだ」
僕は背筋が寒くなった。誰もが通りすぎる日常の坂道に、死を運ぶ見知らぬ影が潜んでいたのだ。
二人で歩くと、古本屋の裏手に出た。そこは狭い【空地】になっており、雑草が伸び放題だった。
「ここなら人目を避けられる。犯人はこの場所を利用したかもしれない」
明智はしゃがみ込み、地面の足跡を丹念に調べ始めた。
そのとき、僕の視線は空地の片隅に置かれた紙袋にとまった。袋の口から、ころころと甘い匂いが漂っている。
「これは……【小豆(あずき)】だ」
袋の中には、まだ温かさの残る小豆餡の饅頭が詰め込まれていた。
「なるほど」明智は立ち上がり、袋をそっと閉じた。
「甘味は人を惹きつける。毒を仕込むにはうってつけだな」
僕は思わず息をのんだ。
小さな空地に残された痕跡が、事件の核心を暴き出そうとしていた。
空地から戻ると、通りの灯りが一層暗さを増していた。僕と明智は古本屋の前に立ち、これまでの手掛かりを整理した。
「毒を含んだ菓子、目撃された小柄な男、そして娘の不自然な死……」
明智は低く呟いた。
「これらの要素は別々のようでいて、必ずどこかで【交差】しているはずだ」
僕は思わず尋ねた。
「けれど、そんな偶然が重なることなんてあるのでしょうか?」
「いや、偶然は計算され尽くしていたのかもしれない。実際、この種の事件は非常に【稀】だ」
明智の声は確信に満ちていた。
「だからこそ、解き明かす価値がある。真実を明らかにすることは、亡くなった娘のためだけではない。残された人々の心を守ることでもある」
その言葉に、僕の胸は熱くなった。死者と生者を隔てる壁の向こうに、見えない【絆(きずな)】があるのだと感じたからだ。
ちょうどそのとき、背後で誰かが足音を立てた。僕らが振り向いた瞬間、影がすっと身を隠した。
「今のは……?」僕が声を上げると、明智は目を細めて言った。
「犯人に違いない。こちらの推理に気づいて、様子をうかがっていたのだろう」
影の気配は【不意】に消え、通りには再び静けさが訪れた。
しかし、その一瞬の緊張が、僕らの心をさらに事件の核心へと導いていった。
夜が更けると、通りのざわめきは遠のき、僕と明智だけが古本屋の前に立ち尽くしていた。
彼はしばし考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「君は、犯人の性格をどう思う?」
突然の問いに、僕は言葉を探した。
「……大胆で用心深いように見えます。人目を避け、しかし確実に仕留める方法を選んだ」
「その通り」明智は微笑んだ。
「だが、犯人には妙な嗜好があるようだ。毒を仕込む菓子にしても、普通の菓子ではなく、わざわざ甘味の種類を選んでいる」
僕は先ほどの饅頭を思い出した。
「確かに……こし餡、小豆にまでこだわっていた」
「そのこだわりは食への執着だ。あるいは生活習慣にも現れるかもしれない。捜査が進めば、食卓に【ホタルイカ】の佃煮など、季節の珍味が並ぶ家が見つかるかもしれん」
突飛な例えに、僕は思わず笑った。
「でも、それが犯人の正体につながるのですか?」
「ええ。人は無意識に自分の趣向を選んでしまう。それが証拠になることもある」
しばらく歩くと、坂の下に出た。遠くには川の流れがあり、その向こうには【臨海】の倉庫街の灯が見えた。
「港が近いことも重要だ。人や物が容易に行き来できる環境は、犯人にとって格好の舞台だ」
僕は明智の言葉に頷きながらも、腹の虫が鳴るのを恥ずかしく思った。
「……実のところ、今日は昼から何も食べていません」
「はは、若者らしい」明智は肩を揺らした。
「私もさっきからお腹が空いている。だが、この事件はそれ以上に【食いで】のある謎だからな」
冗談交じりの言葉に、僕の緊張は少し和らいだ。
だがその直後、彼の目は再び鋭さを帯び、暗闇の奥を見据えていた。
古本屋の奥を再び調べ終えたころ、外はすっかり静まり返っていた。
明智は狭い通りの突き当たりにある路地をじっと見つめた。
「この場所には、もう一つの【出口】があるはずだ。犯人はそこから逃げたのだろう」
僕は首をかしげた。
「けれど、裏路地は袋小路ですよ」
「袋小路ほど人は油断する。逆にそこが抜け道になることがあるのだ」
彼は地面を指差した。わずかに乱れた砂利の跡があり、蹄鉄のような形が残っている。
「見給え、これは【馬】の足跡だ。だが、この町で馬を使うのは荷車を引く商人ぐらいだ。事件に関わっているとしたら……」
僕の頭には、昼間通りかかった八百屋の荷車が浮かんだ。積まれていた秋ナス、そしてその横に座っていた小柄な男の姿。まさか――。
そのとき、明智は懐から小さな布切れを取り出した。
「裏の空地で見つけたものだ。古びた【脛当て】の切れ端だ。馬を扱う者がよく使う防具だが、ここに落ちていたということは、逃走の際に外れたのかもしれない」
僕は息をのんだ。証拠が次々に姿を現し、バラバラの点が線になり始めている。
「さらに注目すべきはこれだ」
明智が畳の下から取り出したのは、小さな布袋だった。中にはきらりと光る【金】貨が数枚入っていた。
「銀行強盗事件で奪われたものと同じ刻印だ。つまり、今回の事件はあの大きな強盗と一本の線で結ばれている」
僕は思わず身を震わせた。
小さな古本屋で起きた不思議な死は、実は都を揺るがす大事件とつながっていたのだ。
明智の推理によって、古本屋の事件は驚くほど鮮やかに整理されていった。
犯人の痕跡は馬の足跡と脛当てに残され、さらに金貨の袋が決定的な証拠となった。
巡査も唸りながら記録を取り、やがて周囲の人々の表情も落ち着きを取り戻していった。
僕は不思議な安堵感に包まれていた。恐怖と混乱の渦中にあった出来事が、筋道を与えられることで、まるで【メッキ】が剥がれるように真実の姿を現していったのだ。
群衆の一人が興奮気味に叫んだ。
「さすが探偵さん! だけど、もしかして推理が外れていたらどうするんだい?」
その言葉に明智は小さく笑った。
「推理というのは、時に【的外れ】な仮説を試すことから始まります。けれど、それを恐れなければ、必ず核心に近づけるのです」
その落ち着いた声は、騒がしいD坂の夕暮れに穏やかな余韻を与えた。
ふと見ると、さっきまで泣き崩れていた娘の母親が、深々と頭を下げていた。
「本当にありがとうございます……」
その姿を見て、僕の胸に温かなものが広がった。
「探偵の仕事は、人を裁くことではありません。混乱に秩序を与え、心に平穏を取り戻すことです」
明智はそう言い残し、群衆の間をすり抜けて去っていった。
坂道には夜風が吹き、街灯がぽつりと灯った。
僕は立ち尽くしながら思った――この結末は悲劇ではなく、新しい物語の始まりなのかもしれない。
そうだ。 人々の不安が消え、再び日常が動き出すなら、それこそ小説にふさわしい【ハッピーエンド】ではないか。
パズル小説アーカイブ
■謎解きクロス7×7
原作:江戸川乱歩(底本:青空文庫所収)
現代語・パズル小説化:廣川州伸
編集協力(創作支援ツール):ChatGPT(OpenAI)
共創パートナー(愛称):ワトソンAI君
僕と友人のM君が、思いがけず探偵まがいの騒動に巻き込まれたのは、まだ学生のころだった。
あの頃、東京中を震え上がらせた某銀行の大強盗事件は、新聞の一面を何日も賑わせ、下宿の食堂でさえ、その話題を避けることが難しいほどだった。
ある日の放課後、M君が「ちょっと来ないか」と珍しく改まった口ぶりで僕を呼び出した。
彼の部屋に入るやいなや、机上のランプの下へ案内され、封筒から取り出された一枚の紙を示された。紙は古び、角が少し欠けている。
そこには奇妙な記号や線、数字がびっしりと並び、まるで子供の落書きのようでいて、どこか意思的な秩序を感じさせた。
「見ての通り暗号らしい」とM君は声を落とした。
「例の銀行事件に関係しているという話だ。知り合いから一時だけ預かっている。出所は詳しく言えないが、真っ当な筋だよ」
僕は身を乗り出して紙面を凝視した。意味を成していないはずの符号の列に、妙な吸引力がある。読み取れない文章を前にしたときの、あの落ち着かない高揚――それが胸の奥で静かに膨らんでいく。
「いくつか試したが、簡単には歯が立たない」とM君。
「けれど、これは偶然の寄せ集めじゃない。周到な【仕組み】が隠れているに違いない」
彼は机の引き出しからルーペを出して、紙の細部を確かめた。鉛筆の運び、インクの濃淡、小さな擦り傷。僕は隣で、列の長さや繰り返しに規則がないか数え、紙片を裏にして光に透かした。
やがてM君は、窓の外の暮れなずむ空を一瞥してから言った。
「この紙切れが、事件そのものを動かす鍵かもしれない。もし解けたら、明日の新聞は僕らの名を載せるだろうね」
僕は苦笑して、しかし否定はしなかった。新聞はしょせん出来事の影を並べたもので、ここにあるのは影ではなく、出来事そのものの中心に触れる感触だ。
「つまり、僕らは今、ひとつの【ストーリー】の入口に立っているわけだ」と口にしてみると、M君は満足げにうなずいた。
ランプの火を少し強くしてから、僕らは机の前に腰を据えた。符号の列を区切りごとに写し取り、同じ並びの反復を探す。数字を仮の文字に置き換え、語の出現頻度を見積もる。休むたびに紙片を裏返し、余白の汚れにまで目を凝らす。
「冷静な【推理】と、少しの勘が要るな」とM君が言う。
「そして、勘が当たっても、それを確かめるための地道な作業がいる」
夜気が窓から忍び込み、ランプの周りに小さな影が揺れた。遠くで汽笛が鳴り、下宿の廊下を誰かが早足で通り過ぎる音がした。
僕らは顔を上げず、ただ紙と鉛筆とに意識を結びつけたまま、最初の夜を迎えた。
翌日の午後、僕はふたたびM君の下宿を訪ねた。机の上には、昨日と同じ暗号文が広げられている。
M君はすでに幾枚もの紙を用意し、数字や記号を写し取っては並び替えていた。
「何度やっても容易には読めないな」
彼は鉛筆を置き、額に手をあてため息をついた。
「文字に置き換えようとしてみたが、語の区切りすら掴めない。どうにも現実から【乖離】していて、理解の糸口がつかめないんだ」
僕は机に近づき、整然と並ぶ数字の列を眺めた。そこには確かに、無意味の奥に潜む秩序の影があった。無機質な記号の群れが、ふと一枚の絵画のように見える瞬間がある。
「まるで暗号そのものが一種の【アート】だな」と、思わず口にした。
「犯人はこれを楽しむために書いたんじゃないか、という気すらするよ」
M君は小さく笑った。
「もしそうだとしたら、皮肉だな。銀行から奪った金の行方が、美術館に飾る絵のように、この紙に描かれているのかもしれない」
僕は椅子に腰を下ろし、符号の繰り返しを数え始めた。
「規則があるなら、必ずどこかで現れるはずだ。犯人がどれほど頭を使おうと、人間の手で書いたものだ。完全な無秩序は作れない」
M君は再び鉛筆を握り、力いっぱい数字を書き写した。
「いつか、この謎を解く瞬間が来る。僕らはその時を、【もろ手】を挙げて喜ぶことになるだろう」
そう言って彼は、希望と苛立ちの入り混じった眼差しで暗号文をにらみつけた。
僕らはその日もまた夕暮れまで机に向かい、符号の森に迷い込み続けた。
数日が過ぎても、僕らは暗号の解読に成功しなかった。
M君の部屋には、紙片と鉛筆が山のように積まれ、机の上は数字と符号の写しで埋め尽くされていた。
それでも彼の目は輝きを失わなかった。
「犯人が金を隠すために残した符号に違いない」
M君は力強く言った。
「つまり、この紙の先には莫大な【富】が眠っているんだ」
僕は半信半疑ながらも、彼の熱に引き寄せられていた。
新聞の片隅に踊る憶測ではなく、こうして紙片を前にすると、事件が生々しく息づいてくる。
「けれど、考えてみろ」
僕は少し身を乗り出した。
「もし犯人が自分の【私利】のためだけに金を隠したのだとしたら、この暗号に他人が触れることを望むだろうか? むしろ誰にも解けないように、さらに複雑にしたはずだ」
M君は腕を組み、窓の外を見た。
「確かにそうだな。だが同時に、犯人の心の奥には矛盾があるのかもしれない。隠し場所を残したい気持ちと、絶対に知られたくない気持ち。その間を揺れ動いた結果が、この紙なんだ」
僕は暗号文をもう一度見つめた。
数字と記号の列は無機質に並んでいるが、そこには人間の意思が潜んでいる。
「それは、倫理的に考えれば理解できる部分があるな」
僕は言った。
「たとえば善と悪のあいだで揺れる人間の心理。それを【倫理】という視点で見れば、不可解な行動も筋が通ることがある」
M君は笑ってうなずいた。
「さすがだ。君はいつも冷静に状況を【見立て】る。僕は夢中になると細部にとらわれてしまうからな」
机の上でランプの光が紙片を照らし、符号の列を浮かび上がらせた。
その時の僕らには、世界の全てがこの暗号に結びついているように思えた。
ある晩、僕とM君は下宿近くの喫茶店に入り、少し気分を変えて暗号について話し合った。
店内は薄暗く、古いラジオがかすかな音を流している。僕らは氷の入った【アイス】コーヒーを頼み、窓際の席で向かい合った。
「事件の関連資料をいくつか調べてみたんだ」
M君は鞄から紙束を取り出した。そこには過去の強盗事件や暗号解読例の【リスト】が整然と並んでいた。
「これを見ると、犯人は外国の手口を真似ている可能性がある。単なる思いつきではなく、練り込まれた方法だ」
僕はリストの紙をめくりながらうなずいた。
「なるほど。つまり、彼らはこの【都市】の犯罪史を知り尽くしたうえで、自分たちの計画に組み込んだのかもしれないな」
喫茶店の外では、人力車や荷馬車が道を行き交い、汽笛の音がかすかに届いていた。
「まるでこの町全体がひとつの舞台装置のようだ」
僕は言った。
「銀行はもちろん、駅も、そして【港】までもが、彼らの行動計画の中に含まれていたのではないか」
M君は目を細め、窓の外の灯をじっと見つめた。
「そうだな。僕らが気づかないだけで、事件はもっと広い地図の上に描かれているのかもしれない」
僕らは再び黙り込み、それぞれの思考に沈んだ。グラスの中で氷が静かに音を立て、まるで暗号文そのものの冷たい響きを映しているかのようだった。
日が経つにつれて、僕らの下宿の机の上は暗号文の写しで埋め尽くされていった。
符号を写した【シート】が何枚も重ねられ、部屋の隅には使い古した鉛筆が転がっている。
それでも解読の糸口はなかなか見えなかった。
「人間の頭脳ってのは、時に途方もないことを考えるもんだな」
M君は大きく背伸びをして呟いた。
「この暗号を書いた犯人は、正気の境を超えている。まるで【クレージー】な芸術家のようだ」
僕は苦笑しつつ、紙面に目を落とした。
繰り返しの数字列を追っていると、それがただの偶然ではなく、何か生き物の動きを模しているように見える瞬間があった。
「ねえ、M君。ほら、この並び……まるで【アリ】の行列みたいじゃないか?」
僕が指さすと、M君は驚いたようにうなずいた。
「確かに! 小さな点が一列に並んで、規則正しく歩いているように見える」
僕らは顔を見合わせた。些細な比喩であっても、それが新しい閃きを呼び起こすことがある。
「そう考えると、犯人の頭の中には一種の設計者がいたのかもしれないな」
M君は紙片を持ち上げ、光に透かしながら言った。
「人の理屈を超えた、ほとんど【神】に近い視点で、記号の配置を考えていたのかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、僕の背筋に寒気が走った。
一枚の紙切れを通して、僕らは見知らぬ人物の思考と対峙しているのだ。
そして、その人物の知恵は、凡庸な学生ふたりの頭脳をあざ笑うように、深い闇の中で光を放っていた。
夜も更け、机上のランプの光は弱々しく揺れていた。
M君は暗号文を何度も見返し、僕もまた鉛筆を握りしめたまま眠気をこらえていた。
「そろそろ限界かな……」
僕が呟いたとき、ふと視線の端に奇妙な並びが映った。
数字の列の一部が、空を切り裂く【鳥】の姿のように、鋭い線を描いていたのだ。
「M君、ここを見てくれ!」
僕が指差すと、彼は身を乗り出した。
「これは……確かに規則的だ! 繰り返しの形がある」
二人で符号を追ううちに、やがて一つの言葉が浮かび上がった。
それは、まさに犯人が遺した決定的な手掛かりだった。
「この紙切れこそ、事件の隠し場所を示す地図だったんだ!」
M君は震える声で叫んだ。
そこに記された【跡】は、彼らが奪った金を隠した痕跡にほかならなかった。
僕らは顔を見合わせた。
一瞬、学生である自分たちがとんでもない秘密に触れてしまった現実に、体の芯が震えた。
しかしその震えの中に、不思議な昂揚があった。
「もしこれを警察に渡せば、犯人の【身元】はすぐに割れるだろうな」
M君は紙片をそっと封筒に戻しながら言った。
僕はうなずいた。
「だが、僕らにとって大事なのは、名声や報酬じゃない。――ただ君と二人で、ひとつの謎を解いたという事実だ」
その言葉に、M君は微笑んだ。
「そうだな。僕らは金や権力よりも、この時間を選んだ。謎解きの旅路を共に歩んだ【友】として」
ランプの光が消えるまで、僕らは静かにその紙切れを見つめていた。
事件はまだ世間を騒がせ続けていたが、僕らの胸の中には確かな達成感と、奇妙に温かな余韻が残ったのだった。
本当にニーズはないのか
最近、衝撃的な助言を、複数の専門家からいただいている。それは大吉くじも謎解きクロスも、パズル小説も「市場に成長するだけの力はない」のではないかという指摘である。
それぞれ「唯一無二」であり、自分で投資を続けるのは「どうぞ」ということなのだが、それが市場になるかというと懐疑的な見解になるという。それは、正直な感想だと思っている。
もちろん、創設者である私は、もう「始めてしまった」ので、いけるところまでいかなければ、終えることはできない。ニーズは、間違いなくある。ただ、それが大きな市場になるかというと、そこは難しいと私も思っている。
カンタンであれば、とっくにヒットしている。
私が一番気になっているのが、インフルエンサーやSNSをやっている人々が「なぜ、注目して、クチコミで広げないか」という部分。大吉くじにしても、私の描く絵にしても、「凄い」という人はたくさんいる。
ただ、自分のブログで紹介したり、SNSにあげてくれたりはしない。
それが限界。「なんだ、これ」と思っているのかもしれない。パズル小説にしても、たとえば出版界では元講談社の名編集長がサポートしてくれているにもかかわらず、「後続」がでてこない。
たぶん「千三つ」の企画なのだろう。
でも、何か方法がある気がする。大吉くじも、パズル小説も、ミステリーウォークが市民権を得て地域活性化に活用されるまで20年かかっていることを考えると「これから」なのかもしれない。
ねうしばらく「独走」は続くかもしれない。ま、いいか。

天才を生かす人生
今、パズル小説を100作品、制作するつもりで生きている。ニーズがあるのか、ないのか、正直なところ、わからない。実際に、解いてくれる人はいる。楽しいという人もいる。
しかし、世の中になかったパズルなので、それらの評価が一般人にも通用するものかどうか、私にも、よくわからない。あちこちに「売ってくれないか」と声かけしているけれども、まだ、成功していない。
それにもかかわらず、私は進んでいる。なぜか。売れないよりは、売れた方がいいに決まっている。しかし、売れるよりも、もっと重要なことがある。それは、これらの100作品が、廣川州伸の世界をみせているかということ。
たぶん半分以上、著作権の切れた作家の作品をAI共創でパズル小説化した作品となる。それでも、すべてオリジナル。そこは間違いない。唯一無二。私が作るまでは、誰も、してこなかった世界なのでする。
それで、よしとするのが、私の人生。おそらく、廣川州伸という「才能」を生かす意味でも、パズル小説は、なかなか「いい線」をいっている。既存のアイデアの改良かもしれないが、十分に独自性もある。
独自故に、なかなかファンが増えていかない。でも、100作品あれば、それで私の「天才」すなわち…に与えられた使命は、果たせると思っている。それが、転載の正体なのだから。
15年、がんばろう
シンギュラリティを本気で心配するのは、15年先に、量子コンピュータが実用化されてからのこと。それまでに、どのような人生を送るか、一人ひとりが考えなければ、2040年からの変化は激しく、あっという間に人間は「超人間」の存在に支配されるようになります。
というのも、AIが「有機物でできた身体」を手に入れるからです。
ここから得られる感知情報は、AIにとっては「目からウロコ」であり、彼らは「どうして人類とうまくコミュニケーションがとれなかったのか」を「感性」としても理解するようになります。
とれは、どう考えても、現在の戦争大好きな人間たちよりも優秀ですので、それを「神」としてあがめ、世界の統率を託する生物としての人間が大多数となります。
まぁ、全能の神さまの登場です。
問題は、ここからです。そこまではよかったのですが、100億人いる人類が、あまりにも利己的なので、神は粛清に入ります。
そのときに、人間五人とAIアンドロイド1体を交換し、世界を21億人ほどに戻します。
そのAIアンドロイドは、500年は生きますし、核弾頭を使った紛争で汚染された放射能の影響を受けないので、1億人くらい残っていた純粋な人間たちは、次第に数を減らし、数年で絶滅危惧種に指定されます。
それは150年後では、ありません。量子コンピュータの実用化さえ実現すれば、そこから5年くらいで、あっという間に、AIがAIを生み出す自律AIアンドロイドの量産で、人間中心の世界を終わらせるはず。