パズル小説

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パズル小説 快答ルパンの冒険<4>

■第4話『初日の出』

 

 

 

東京で生まれ、青春時代を送った快答ルパンは永い間、自然は美しく、人の開発が進んだ都会は「汚れている」と思い込んでいた。

 

しかし、そんな固定観念が通じない稀有(けう)な瞬間がある。

それは夕日が沈んだ後、朝日がのぼる前、思いがけず雪景色になっていた都市の空間など。そこにある景色は昔から人々の心をふるわせ、多くの絵師(えし)が男女の営みを記した秘画(ひが)とともに、大切にしてきた風景である。

確かに人生には、ときどき特別な時間が流れていた。

竹早高校2年生となっていた快答ルパンは、大晦日に気の合った同級生の家に行き、隠れて酒を飲む楽しみを共有した。

ポテトチップをツマミに缶ビールを飲み、年越しそばの代わりに鍋焼きうどんを食べて温まってから、誰彼ともなく「初日の出を観よう」ということになった。

四人は全員、元旦の昼までの予定は未定なので、ちょっとした遠出ができた。

 

東京で生まれ育った私たちは、小学校の遠足で江ノ島、鎌倉、修学旅行は日光に行った。その経験から、初日の出が観られそうな場所は江ノ島だった。せっかくなら(なぎさ)のある海辺に行き、水平線から立ち上がる初日の出を観たかった。

 

集まった仲間は、快答ルパンを入れて四人。

別に麻雀などの賭け事をするわけではなく、国電に乗って田舎の駅まで行くにはボックス席が楽しく、四人が理想的な仲間となった。

もっとも大晦日の特別ダイヤの深夜便は朝のラッシュ並みに混み、座席に腰かけることはなかった。

 

都会の空を舞うのは黒いカラスだが、海原を旋回する白いカモメは優雅だった。

江ノ島で見た初日の出は銀紙につつんで好きな女性に届けたいほど秀逸で、そこには特別なチカラがあるような気がした。

元旦にもかかわらず、新宿にあるサウナが正月料金2割増しとなって営業していたので汗をながし、昼前、四人はそれぞれの家族が待つ家に帰った。

 

それ以後、四人は大晦日になると集まり、江ノ島に向かった。

いつも逢っている四人ではなかったが、なんとなく「特別なこと」をしている気持ちになり、誰も別の友人を誘わないまま、同じ面子で大晦日に集まった。

 

その四人は、どうなったのか。

 

□エンジニアになったKは明治大学に通い、男気のあるまっとうな社会人となった。

□調理師免許を持つHは同窓生の中で変わり者。2019年2月、帰らぬ人となった。

□ソニー盛田さんの従兄弟Aは二十代で水商売に入り、酒と女と涙の中で行方不明に。

□快答ルパンは大学を休学してヨーロッパを放浪。勤め人を15年して自由に戻った。

水平線から昇る太陽が観たいから、太平洋側は変わらなかったが、神奈川県側ではなく、次第に千葉県、具体的には館山・鴨川・勝浦・大原・九十九里・銚子と、まだ知らない土地に向かった。

遠出をするようになると、指定席券を買って特急に乗った。膝の上に自家製の塩辛などを並べ、ワンカップをちびりちびりとなめて過ごした。

 

同じ朝日なのに、元旦に出てくる太陽は神々しい。

 

「一年の計は元旦にあり」は、中国の伝統的な年中行事やしきたりを解説した明代の書「月令広義」に由来する。

正確には「一日(いちじつ)の計は晨(あした)にあり、一年の計は春にあり」という一文。ここで「晨」は朝を指し、「春」は正月を意味する。

この戒め(いましめ)は「1日の初めとなる朝、一年の初めである正月にこそ計画を立てるべき」となる。たとえば王位を継承する者にとって初日の出を拝むことができれば安泰となるだろう。

 

大学を卒業しても就職しても、結婚して子どもが生まれても、快答ルパンの生活は安定することがなく、家計は火の車。それにもかかわらず「作家になる」との筋違いな辞意を伝えて、彼は3回、転職を経験している。

クライアントだった旭化成へーベルハウスで自動制御の家を建て、独立して内勤から外勤に代わり、本を書くようになっても初日の出を愛でる人生を送ってきた。

 

夕焼けはノスタルジックで美しく、朝日もまた美の活力を感じさせ、あまりにも弱い人間を威嚇(いかく)し続けた。

人生がどんなに汚れていても、想いを寄せた馴染み(なじみ)の女性が他人と恋におちて、騙し討ちのような手際よさでラブホテルに入り、そこでを重ねたとしても、自然の美の存在感を超える出来事は知らなかった。

たとえ衣文掛け(えもんかけ)に、快答ルパンがプレゼントしたディオールのマフラーが無造作に駆けられていたとしても、必ずやってくる初日の出は、いつも美しかった。

 

その女性に色仕掛けを仕掛けようと書いたラブレターも、愛に関わる語彙(ごい)の知識を得ただけで徒労に終わっても、雪化粧をしたばかりの街は無条件に美しかった。かの天才詩人の「汚れちまった悲しみに……」という言葉をかみしめ、快答ルパンは人生の坂を駆けのぼった。駆け落ちていたことも知らずに。

 

西日本は1995年1月17日、東日本は2011年3月11日、非常時となった。

それでも大晦日はあり、四人組の三人とは疎遠になったものの、快答ルパンは一人で車を走らせ、海辺を目指した。

 

できるなら水平線から太陽が昇るスッキリした初日の出を求めているが、快答ルパンは、まだ一度も、その賭けには勝ったことがない。

それでも、今年は水平線から昇る太陽を観て、日本初の作品を世に問い、ミリオンセラーを飛ばして、豪華客船に乗って世界遺産をめぐる旅に出ようと祈ることだろう。

 

 

■ヒント

【縦10】騙し討ち

【縦12】衣紋掛け

<横7>色仕掛け

<横24>非常時

 

 

 

2020年2月1日

パズル小説 快答ルパンの冒険<3>

■第3話『居場所』

快答ルパンは、なかなか自分の居場所を持てなかった。それは本来なら人生の見本となるべき親が、頼りないことに由来するのかもしれない。

 

親の因果が子に報いという。

快答ルパンは、子どものころから異形だった。これは個人情報なので私が勝手に語るわけにはいかないが、誰が観てもわかる明確な違いが、彼の人生を変えていった。

彼には二歳上の兄貴がいたが、彼は少なくともカタチの上ではみんなと同じ。それゆえ親の期待度が高く、公務員上級職として生きることになる。

一方、次男坊として生まれた快答ルパンは性質が素直であったこともあり、兄が通った保育園には行かず、幼少期は野良として生きた。

春・夏・秋と、天気がよければ彼はグランドにある芝生に寝ころび羽毛のように浮かぶ白い雲を追い、眠りに就いた。

冬、グランド一面に真っ白な雪が積もったときは、さすがにダイレクトに寝ころぶことはできなかったのだが。

彼の家は、給食費が未納となる経済状況ではなかったが、駄菓子屋での買い食いは許されなかった。その代わり母には菓子を持たされた。それを粉雪にまぶしてアイスだと思って食べたりした。そのとき彼は、自分の居場所はここだという気がしていた。

ところが竹早高校で、快答ルパンは自分の立ち位置が見つけられない。

15才で同級となった生徒たちの大半が連鎖反応のように自分の居場所に収まっていく。

毎日登校して授業に出るにもかかわらず、彼には居場所がなかった。それで覚悟を決めて、都会に繰り出した。

竹早高校には自由の空気が流れ、授業をサボって大人社会をのぞきに行く猛者も少なくなかった。Aの胸にはゴールデンバット、Bの胸には場外馬券、Cの胸には意図は知らなかったが四つ折りの1万円札が数枚、収まっていた。

快答ルパンは、そこに群がる生徒の輪に入れず、給水塔の屋根に上って街を眺めて過ごした。勉強だけでは物足りず、自分の人生に何かを追加をする必要があった。

 

二浪して入った大学でも居場所がなく、高校と同じように講義をサボって土方のアルバイトを始めた。格安の航空チケットを買って、ヨーロッパに行こうと思った。

そんなとき村上龍の『限りなく透明に近いブルー』が芥川賞をとった。

その作品は、群像新人賞のときから気になっていた。というのも選考理由に、吉行淳之介が書いたことが気になっていた。

「ふつう原稿は黒いペンで書くが、村上龍氏は青いボールペンで書いていた。そこに新しい時代の機運を感じたので推挙した」

それは、常識破りとのこと。どんな人物か観てみたかった。

そこで土方のアルバイトで連れていかれた池袋の工事現場から抜け出し、村上龍の新刊を買ってサイン会に並んだ。

そこに居たのは独身の女性ばかり。快答ルパンは、土方仕事でのように流れた汗を吸って重くなった作業着の上に、親方が持っていた青いガウンを羽織って、長い列に並んだ。いつの間にか、作業着は乾いていた。扇風機が回る書店内は天然の乾燥機となっていたに違いない。なかなか順番はこず、彼の咽までカラカラになっていた。

書店の奥に置かれた長ケテーブルの上には限定100冊という初版「限りなく透明に近いブルー」が積まれ、書店員が書籍代と100番までの整理券を交換して歩いた。

村上龍は一人ひとり、買ってくれた初版本に「Reu」と描き入れた。快答ルパンは、その文字が森に生えているシダのように湿って見えた。

サイン本を手渡すとき、村上龍はサングラスをした顔をあげたが、ブランド戦略なのだろう、一言も声を発することなく、座ったままであった。

快答ルパンの順番がきた。彼は言った。

「おめでとう」

村上龍は男の声にビクッとしたが、すぐ立ち上がり手を握った。後で知ったのだが、村上龍は昔の友人を探していたらしい。

本を書けば、それまで逢えなかった友人が祝いに来る機会になる。

「ありがとう」

村上龍は自分を果報者と感じていた。もっとも彼は作家という居場所をみつけたが、快答ルパンに居場所はなかった。

現場に戻ると、親方が工事現場の総支配人に当たる人に怒られていた。快答ルパンが、昼休みを過ぎても仕事に戻らなかったからだ。

「もう1時間も遅刻だぞ。どうしてくれる」

「彼は考古学を専攻する学生で、日ごろ貝塚の発掘で鍛えているから仕事は早いんでさぁ。すぐに追いつきます」

「また、うまいこと言って。彼の手当ては、払わないからね」

「かんべんしてくださいよ。彼には看護が必要な母親と、夫婦喧嘩して家に帰ってきたまま、働きもせず元のに収まらない姉がいるんです」

「それが、何の関係があるんだよ」

「このうら盆には死んだ父の初供養もあるし、お金が要るんです」

「それはかわいそうだけど」

「でしょう。昨日はジャイアンツが惜敗したし」

快答ルパンは、亡き父から自分の入るを譲り受けた。もう20年も前のことで、以来、父の墓参りのときには自分の居場所も確認に行く。

その墓石には『愛夢永遠』と刻んであった。快答ルパンは、その近くにABCDEFを建て、終の棲家とすることを夢見ている。

 

 

■ヒント

【縦10】乾燥機 【縦12】サイン会

<横7>ダイレクト <横24>果報者

 

 

2020年2月1日

パズル小説 快答ルパンの冒険<2>

■第2話『とりあえず、京都』

十で神童、十五で天才、二十歳過ぎればただの人という。

快答ルパンも、高校時代はクラスの中にたくさんいた天才児の一人だった。

香港の若者たちの動向も気になるものの、還暦を過ぎた自分の未来も気になっている。私たちの行先は、本当に自由だったのだろうか。

 

京都には、何度も訪れている。

最初は14歳、中学の修学旅行のときだった。古都の異質な景色が忘れられず、大阪万博で親戚のマンションに一週間ほど滞在させてもらったときに再訪している。

その次は、竹早高校生となって最初の夏、快答ルパンは15才になっていた。ユースホステルの予約をとる時間はなかった。そもそもお盆の時期は予約がとれない。そこでガイドブックには、

「困ったら神社仏閣のユースホステルに行き、相談しなさい」

と書いてあった。現地に行けば何とかなるらしい。家族に置き手紙を残し、朝の5時頃、池袋駅に向かった。切符売り場で、

「とりあえず、京都まで」

と口にすると、

「ビールじゃねぇぞ、このガキ」

という声が聞こえたが、幻聴かもしれない。快答ルパンは、相手の表情から読み取った言葉を、頭の中で反芻する癖があった。

「で、どこに行きたいの?」

民営化など夢にも思わなかった時代、国鉄職員は怪しい少年に横柄だったが、それがまた少年の目にはカッコよく映った。

快答ルパンは、あたかもユースホステルの予約がとれているかのように装って、京都から奈良を、1カ月かけて回るスケジュールを告げた。

「途中、大阪にいるおじさんのところに寄るかもしれません」

「おじさん? なるほどね。もう一度聞くけど、新幹線は使わないの」

「はい。急行を乗り継いで行きます」

「わかった。がんばれよ」

若い駅員が短冊のような厚手の紙にパンチを入れ、その日の日付と有効期限を青いゴム印で印字すると往復切符のような周遊券ができあがった。

 

快答ルパンは東京駅に出て、東海道線を乗り継いで京都に向かった。新幹線ではなく、急行を利用するところが、なんだか楽しかった。周遊券が使えるのは関西エリアだけであり、途中下車ができなかったので、駅休憩室にある木製のベンチで寝た。彼にとって、待合室のベンチで寝るのは初めてではなかった。

 

中学二年の夏、冒険をしたいと思った快答ルパンは、東武東上線小川町駅で降り、登山道入口に入って二本木峠に向かった。

かつてハイキングで来た道を、他の登山客にまじって登った。

ときどき登山客とは挨拶の言葉を交わした。身体の大きかった彼を、周りは大人だと思っていたことだろう。

二本木峠までは順調だった。だが下りに入って、ちょっと冒険しようと思い、寄居駅までの道をカットできるかもしれないと言い聞かせて脇道に入った。失敗しても戻れると、軽い気持ちでいた。

だが、たどりついた場所は四方八方に道らしきものはなく、深い緑に囲まれていた。

それから五時間が過ぎても、彼は山林の底にいた。山の夕暮れは足が速い。あたりから光が逃げだし、あっという間に漆黒の闇に包まれた。

怖かった。しばらくじっと目を凝らしていると、たまたま快晴だったので、木立の間から星空が見えた。手探り、足探りをして少しずつ前に進んだ。

「このまま命を落としたら、事故で死んだことになるのだろうか」

歩きながら、自分の葬儀を考えた。遺族の代表として、父は何を語るのだろうか。自分の息子が、どんな少年だったか、ささいなことを列挙して涙するのだろうか。そんなことを考えながら、ひたすら前に進んだ。

夜の十時を回ったころ。耳を澄ますと自動車が走る音が聞こえた。

「どこかに舗装された道路がある」

快答ルパンは車道に出て、それを伝って歩いていくと東武東上線の寄居駅にたどり着いた。急に、腹が空いた。

駅前には、Yうどんの自動販売機が置かれていた。駅前の酒屋にも自動販売機があったので、迷うことなくワンカップを買った。

温かい天ぷらうどんをすすりながらコップ酒を飲んだ。

快答ルパンは、自分が何かに生かされていることを感じながら、改札の横にある待合室のベンチで眠ったのである。

話はもどるが、とりあえず京都の駅舎に立った快答ルパンは、電車の中でさんざん眠ったので、まったく眠くなかった。

煌々とテラス裸電球の下で、持ってきた文庫本を読んだ。

そこには、日本各地に伝承された怖い数え歌について書かれていた。当時の流行りなのかゲゼルシャフトやゲマインシャフトという言葉が頻繁に出てきた。何のことかつかめなかったものの、未知の世界にわくわくした。

高校生になって夜更かしには慣れていたつもりだったが、午後二時を回ると、さすがに睡魔に襲われた。待合室にある蚊取線香の煙の風下に立ち、煙を汗にまみれた素肌にこすりつけ、ホームの端にあるベンチに戻った。

最初は効果が感じられたが、やがて効かなくなる。そこで渦巻きの途中で蚊取線香を折り、残った線香にはマッチで火を点け、自分の寝床であるベンチの下に立てかけると、いつの間にか羽音は聞こえなくなった。

 

京都・奈良に行ってみて、15才ながら目からウロコが落ちたのは、世界の誰一人、自分を待っていなかったという事実だった。

それが、快答ルパンが最初につかんだ世界の原理原則である。

東京で生活していれば帰る家があった。自分の存在を、無条件に認めている父母がいた。何をするにも、必ず大人たちの目があった。

ちょっと冒険をして横浜に行っても、父母が遠隔操作をしているかのように、見えない絆で結ばれて、安心感が生まれていた。

高校に入って、家族とは何かの同盟を結んでいるかのように価値観をシェアしていた。そのなかで、冒険のできない男は価値がないというものがあった。行くか行くまいか迷ったら、必ず冒険する法を選んだ。そこには、誰かが待っていたのである。

しかし、とりあえず京都に行き、街歩きをしてみると、誰も自分を待っていなかったことに、今さらながら気づかされた。

価値の有無以前の問題として、自分の存在そのものが、京都に流れる歴史と比べて、あまりにも短く、また小さなものであった。自分は、ただの点にすぎない。だから、誰も気に留めないし、誰も待っていなかった。

「自分は、大変な世界に生まれてしまったのではないか」

そのことを考えると、背筋が寒くなり、胸が痛んだ。

 

土産に古布を使った巾着を買った快答ルパンが東京に戻ったのは、9月に入ってからのこと。すでに高校の授業は始まっていた。

その後、快答ルパンは、自分の存在が誰にも「待たれていない」社会に生まれてしまったことに、大きな不安を感じるようになる。深く、暗い穴に突き落とされ、青空が見えていた入口にフタをされてしまった、そんな不安にさいなまれることになる。

 

それから、半世紀になろうとしている今、快答ルパンも、すでに人生の結果を半分くらい知ってしまった。

かつての天才たちも還暦を越えているが、ただの人と変わらなかった。メカの天才だった彼は、片田舎の工場で自動車部品を作っていた。サッカー部の彼は中年太りがそのまましぼんだ容姿となり、子どものサッカーの話題を熱心に語っていた。

三十代までハッとする美を見せていた彼女は、化粧に手間をかけても若さにはかなわないと悟り、アウトドア派に変身。深い皺の側面まで色づいていたが、

「私は百歳までをしたい」

と豪快に笑っていた。後輩の女子に手あたり次第に手を出して雷魚というあだ名がついた彼は、名簿では行方不明になっている。

大皿に盛ったソース焼きそばを平らげた胃袋も、今では小皿で済んでしまう。料理への関心もうすれ、カロリーの総だけが気になって仕方ない。

もちろん、変わったのは天才だけではない。真面目な好青年は中年になって色男になり、飲食店を転々として、ジゴロのような生活を続けた。その結果、トイレ掃除だけは達人になれたとうそぶいている。

高校のときから、公務員を目指す兵もいた。ただ多くの者は、君子危うきに近づかず。何の冒険もせず、休み時間には単語帳を開き、暗記に集中していた。

まさか自分が、企業社会からアウトを宣告されるとは思わなかったに違いない。

 

さて、今回はここまでとしよう。

京都・奈良でどんな冒険が待っていたのか、それは次回に触れることとしたい。

 

快答ルパンの夢は、ヨーロッパの豪華寝台列車に乗って古城をめぐることだ。

いつもABCDEFGに入りびたり、朝はモーニングコーヒー、昼はパスタのランチ、夜はフルコースのディナーをとる。かつて体験した冒険に想いをめぐらせながら。

 

■ヒント

【縦10】数え歌 【縦12】天才児

<横7>色男 <横24>コップ酒

 

 

2020年2月1日

快答ルパンの冒険<1>

パズル小説 快答ルパンの冒険<1>

【日本初・パズル小説家】廣川州伸(74回生)

 

 

□パズル小説は、廣川が開発した謎解きクロス®というパズルを使った小説で、本稿は特別に書き下ろしたもの。全体のタッチは江戸川乱歩調ですが、パズル小説は子どもから大人までカップルでも家族でも安心して楽しめるようエロ・グロ禁止となっています。

 

□快答ルパンは、廣川が書くパズル小説の舞台として設定された探偵@ホームズ事務所のライバル。探偵@ホームズと知恵比べをする快答ルパンは、いつも難しい問題を何題か提示します。

 

□快答ルパンの冒険は、原則として毎月1回アップする予定。その問題は謎解きクロス®9×9を使った本格的なパズル小説となります。

 

■プロローグ

 

ある晴れた日の朝。

「大変です! 池野所長、起きて!」

と叫んだのは、アルバイトで探偵の助手をしている、大学生の東島君。

そこは東京・渋谷にある雑居ビルの一室。玄関に『探偵@ホームズ』という看板のある小さな事務所である。

もっとも探偵といっても、その事務所では殺人などの凶悪事件や夫婦ゲンカなどのややこしい事件を調べることはしない。

彼らの専門は、地域の文化や歴史、魅力が失われたという謎を解明することで、罪のない話が大半だ。心の傷をえぐることもないので、痛みもなかった。

「東島君、どうしました? まさか、また快答ルパンが……」

「さすが所長。素晴らしい推理力。勉強になります」

「おいおい、朝からヨイショしなくてもいいよ。ぼくのところにも快答ルパンから挑戦状が届いたからね。今度は、ある書店にまつわる謎解きらしい。神奈川のほうに冒険に行き、江戸川乱歩の世界を盗んできたらしい」

「なんか、不思議な窃盗ですね」

「確かに、セットになっている!」

以下、快答ルパンの挑戦状に書かれている謎を提示しておこう。

 

□第1の謎(快答ルパン)

 

横浜①スタジアムが見える高台の一軒家で、その難事件は幕を開けた。

たまには男の②手料理でも作るかと新しいレシピを探しに図書館に行った帰り道でのこと。私は、そびえたつ洋館の門前で怪しい一団の一人に声をかけられた。

「あら、こんばんは。どちらまで?」

彼女は、はっとする③目鼻立ちの美人だが、よく見れば顔なじみだ。

「ちょっと図書館に。あなたは?」

「この洋館でミステリー・パーティがあると聞いてきたのですが、呼び鈴を鳴らしても、誰も出てこないの」

「へぇ。ミステリー・パーティですか。なんだか面白そうですね」

「よかったら一緒に参加しません? 会費は5千円ですが」

そんなことを話しているうちに、門前の人々の数も増え、やがて玄関から執事らしき黒服の老人がでてきた。

「申し訳ありません。呼び鈴が故障していたようで。さ、お入りください」

私たちは洋館の中に入った。大きな玄関の扉を開けると、フランス料理の匂いが漂ってきた。

通された④応接間の中には、すでに少なからぬ先客がいた。彼らは、いつから飲んでいたのだろう。数時間後、出窓の外はすっかり銀世界になっていた。

庭で⑤雨ざらしになっていた竹細工の人形も真っ白になり、とても寒そうだ。

と、そこに叫び声があがった。

「ギャー! 誰かー!」

どうも、洋館の二階らしい。誰も走り出さないので、仕方なく私が階段をのぼって駆けつけてみると、廊下の突き当たりのドアを例の執事が叩いている。

「ここは寝室ですが、中から叫び声が聞こえたので来てみますと、ドアに鍵がかかっていて開きません」

私は、斧を振り下ろした。

開いた穴から手を入れて、ロックを外す。室内は暗かった。廊下の明かりから、ベッドの上に寝そべる人影が見えた。動かない。私は、室内のスイッチを探して明かりをつけた。そのとき風が吹き抜けた気がした。

「あ、あれは!」

ベッドの上には、お定まりの死体があるほか誰もいなかった。窓は、どれも内側から鍵がかかっていたし、秘密の通路も、動物が出入りするような煙突もない。

これは密室なのである。私は、死体に触るのは苦手だ。というより、それが生れて初めてみる、たぶん本物の死体?

もしミステリー・パーティだとわかっていなかったら、そもそもドアを打ち破って中に入ることはしなかった。誰かが死体に近づき、ここで殺人事件が起きたことを宣言した。

「ぼくは医学部の学生です。確認します」

私は、ちょっとだけ冷静になってきた。これがミステリー・パーティなら、真犯人は、この近くにいる。数えてみると、室内には8人が入り込んでいた。

この中の誰かが真犯人なのだろうが、見つけるのは容易ではない。なぜなら、すでに「その瞬間」はすぎてしまったから。

少し落ち着いてきた私は、こんなことを考えた。

密室でおきた事件は⑥被害者加害者の区別がつかないことがある。すなわち、自作自演というやつだ。

命がけで演技すれば、密室で事件を起こし、入口を壊して入った者と入れ違いに廊下に出て、まるで今かけつけたように目撃者になることもできる。

そもそも⑧大都会には、江戸川乱歩の小説にある黒蜥蜴のような女性がいる。実は、洋館の前で会った彼女も、集まっていた人も、みなグルだったのかもしれない。

窃盗団は⑨努力家であるとともに、互いに助け合う互助会のようなもの。

「SNSで調べたら殺された人は水泳の⑩指導員。詳しい情報はプロフィールが非公開で、よくわからないわ」

その後、彼女は⑪独り言を言うので、私は近くに落ちていた紙の余白に殴り書きをした。その紙は⑫カレンダーだったが、事件とは無関係とは思われなかった。

そのとき突然、私は思い出した。その洋館のことを、街の住人が何と呼んでいたのか。そして理解した。私たちは、とんでもない難事件の渦中にいることを。

 

さて、謎を解くための準備は整った。

 

これまでの文章には①から⑫までの記号が付けられている。しかもその記号には、読み仮名にすると5文字のゴシックのキーワードが含まれている。

それぞれ、キーワードは窃盗、もといセット、すなわちペアになっているが、不思議なことに、5文字の「ど真ん中」の文字が共通になっている。

その①~⑫の文字を解答記入欄に記入れば「第2の謎」は解けるだろう。

■第2の謎

 

■はじめに

 

おそらく、みなさんも竹早高校図書室の数十倍の時間を、都心にある書店で過ごしたのではなかったか。快答ルパンも例外ではない。

三省堂、書泉とならんで、快答ルパンが好んで立ち寄ったのが、Y堂である。

今回、快答ルパンは、横浜へと冒険に出た、そこでY堂の歴史を学びながら、本好きの容疑者の中から、Amazonでパズル小説を購入し、書評で★五つの高評価を残し、友人知人に「意外に面白いし、全部解くのは大変だけれど、購読者特典として謎解きクロスの作り方もゲットできるから、お買い得の本」などと勧めてくれた真犯人は、一体、誰かを謎解きしていただきたい。

 

■容疑者登場

 

快答ルパンの提示した謎は、単純である。

お金を払って「謎解きクロスを使ったパズル小説」を、Amazonで購入してくれた「とってもいい人」を見つけることだ。

その容疑者は、以下の五人となる。

 

【容疑者】

□吉岡新鮮さん……新鮮な記事を書くジャーナリスト

□篠辺修業さん……天気予報を伝える人気キャスター

□高倉孝匠さん……甲子園を目指す野球チームの監督

□中村光臨さん……清里の野菜で作る和食料理の達人

□薩田美子さん……イタリア直輸入の雑貨店オーナー

 

■東島君、容疑者にせまる

 

東島君は、まず飯田橋に行き、吉岡さんが経営している出版社の応接室に入った。

出版業界の現状に詳しい吉岡さんに、Y堂の歴史について教わりたいと電話を入れてあったのである。

「東島君、快答ルパンは書店に関心があるようだね」

「はい。今回の謎解きは出版業界、というよりも書店の歴史を知る必要があります。博学の吉岡さんなら、Y堂の歴史をよく知っていると思いまして」

「Y堂ね。快答ルパンの提示した謎解きクロスの解答は、たしか9文字。横浜の文字が入るような気がするけど、どうかな。伊勢佐木町かもしれないし」

「なるほど、参考になります」

 

ここで吉岡さんが2時間かけて東島君に語ってくれたY堂の歴史を、かいつまんで、といってもちょっと長いが、紹介しておこう。

 

東京・神奈川・千葉に店舗を展開し、伊勢佐木町に本店を構えるY堂。

その名は論語の「徳不孤、必有隣」という言葉に由来している。意味は、徳を積んだ人は孤独にならず、必ず隣に誰かいるようになるということ。

そこには、隣近所に住む人が自然に集まるような場所になってほしいとの思いが込められていた。

Y堂を創業した大助の父は源蔵といい、新潟県小千谷市で生まれた。

源蔵の家は農家だったのかもしれないが、源蔵自身は麻織物の小千谷縮(おぢやちぢみ)行商人となり、たまに横浜に来て商売をしていたという。

源蔵は、横浜で妻となる女性と巡り逢って結婚し、根を下ろした。そして明治10年代の中ごろ、横浜市尾上(おのえ)町で「貸本屋」を始めた。

創業者の大助は、源蔵の四男として明治17(1884)年に生を受けたものの、大助が2歳のとき、源蔵と死別。

そこから、大助の労苦が始まる。

 

家業を継いだ長男の貞造は、尾上町から、隣接する吉田町に移って「Y堂」という書店を開業した。明治27(1894)年のことである。

明治33(1900)年に、大助の姉ロクと結婚した鐘太郎によって「第二Y堂」が開業すると「Y堂」は「第一Y堂」に改称した。

その後Y堂は「書店」として暖簾分けを進め、最盛期には「第一」から「第八」まであったという。

明治42(1909)年、大助は現在の伊勢佐木町本店所在地の一角にあった倉田屋という書店が廃業したお蔭で「第四Y堂」を開業することができた。

そこは、木造2階建て間口2間(3.6m)、奥行き3間(5.4m)という狭い店舗だったが、大助にはかけがえのない場所となった。

 

Y堂が創業した横浜は港町であり、当時の日本のなかでも、特別な土地柄であった。何よりも、横浜の人たちはハイカラ好きだった。

それでY堂では、創業の初期から万年筆、鉛筆、ノートなど「文具」の品ぞろえに力を入れた。

もちろん外国の貴婦人や船員相手の踊り子に気に入られたいというよこしま意図はなく、純粋にファッショナブルな新商品を好むという気質があったのだろう。

これは余談になるが、東京ではカジノ特区が話題になっているが、横浜こそそれが相応しい場所ではないだろうか。

近隣には、界に誇るの街、横浜中華街がある。もってこいの土地柄だろう。

 

■なぜか、篠辺さん登場

 

ここまで話したとき、容疑者の篠辺さんが遊びに来た。

「あ、これは珍しい。篠辺くん、なんとかホールディングス副社長を退いてから、何だか楽しそうだね」

「今まで、責任ばかり重くて、肩がこっていましたから」

「ストレスがないってことは、いいことだけど、今日は何か?」

「それが快答ルパンから、しちめんどくさそうなメールがきたんで、吉岡先輩に相談しようと……東島君がいるということは……謎は解けたの?」

「いえ、篠辺さん。今、吉岡さんにY堂の歴史を教わっていたのです」

「Y堂の歴史……確かに、快答ルパンの謎解きには欠かせないな。ぼくも、快答ルパンは横浜まで冒険に出ると思う。吉岡さん、ぼくにもY堂の歴史を聞かせてください」

「わかりました。Y堂といえば……」

吉岡さんは、東島君と篠辺さんの二人に語りかけた。

「あそこの社員は地味だけど、まじめによく働く。創業者の大助も、大晦日には帳面の整理で帰れず、元日の始発の市電で帰る状態。さすがに今日、そんなことをしたらブラック企業とみられてしまう……」

以下、ふたたび吉岡さんの話を、かいつまんで紹介しておこう。

 

あまり楽しみのなかった当時、書店で働くという仕事そのものに、大きな価値を見出すことができた。

人生とは、決して甘いものではなく、書物には人生のにも薬にもなる真実が含まれているが、言の葉には、未来を変えるだけの魔力もひそんでいる。

書店員がまじめなのは、そんな書物にある世界を、市井の人々に届けようという強いミッションがあるからだ。

Y堂は、順調に成長していった。大正時代の伊勢佐木町本店は、西洋風の凝った装飾の建物に変えた。

2階の上の看板にある文字は金色に輝いていた。

 

ところが、大正12年9月1日の関東大震災が襲った。

当時、横浜の人口は約45万人だったが、横浜は東京よりも地震の被害が大きく、一晩で市街地の中心部がほとんど壊滅。

その死者は23000人ともみられている。

なかでも一番ひどかったのは伊勢佐木町周辺。そこは飲食店が並んでいて火災が非常に多く発生したため、Y堂を始め伊勢佐木町周辺が、すっかり燃えてしまった。

明確な記録はないものの、横浜の温度計の示度は、きっと数百度を超えていたことだろう。

当時の伊勢佐木町警察署が管轄していた区域では、死者だけで12000人と、全体の半分が亡くなっている。もし東北を襲った東日本大震災のように大きな津波がきていたら、被害は数倍に拡大したはずだ。

 

震災で倒壊した企業の多くが横浜の外に出ていくなか、Y堂は再建を目指し、復興に努めた。

今思えば、関東大震災という大きな天災から立ち直って喜んだのも束の間のこと。わずか20年もたたないうちに、日本は戦争という地獄のような人災に遭遇する。

 

■突然、中村さんも加わった

 

「へぇ。そんなことがあったんですね」

「東島君は平成生れだから、昭和の戦争は何も知らないだろうね」

「何も知らない……そんなこと言われたら、いくら大人しいボクでも平静にはなれません……なんちゃって。吉岡さん、こんな感じでいいですか」

「まあ、30点かな」

などと話しているところに、また容疑者がやってきた。

吉岡さんは、高倉さんを見て笑った。

「あ、高倉さん。けっこう飲んでいますね」

「そんなことはありません。スコッチだけ」

東島君は、笑っていいのか悪いのか判断がつかず、篠辺さんをチラリと見たがガックリと脱力感がただよっていたので、それにならった。

「ところで、みんな何していたの? まさか快答ルパン?」

「どうも快答ルパンは、Y堂の歴史に関わる冒険に出たらしいと、池野所長から連絡があってね、それで東島君にY堂の歴史を伝えていたところなんだよ」

「それで、何かわかった?」

「まだ、なんとも……」

 

昭和16(1941)年12月、太平洋戦争が始まると、戦争という狂気が、すべての国民を武装した過激派に変えてしまった。

尋常ではない非常時になると、市民は、まるで何かが乗り移ったような憑代(よりしろ)の状態にあったのかもしれない。

戦時下では、「同位角は等しい」などという幾何学の本に象徴される理科系の本が売れたものの、盛り場の伊勢佐木町界隈にも軍の工場ができたりして、すっかり様変わりしていく。伊勢佐木町のY堂は木造2階建てであった。

そのこともあり、昭和20(1945)年5月29日の空襲で、十万発以上といわれる焼夷弾によって、あたりは焼け野原と化し、Y堂も灰となった。

 

昭和20(1945)年8月15日。真夏の昼下がり、日本は終戦を迎えた。

戦後、Y堂は本牧の倉庫で営業を再開したものの、伊勢佐木町の敷地は米国の駐留軍に接収された。

伊勢佐木町にY堂本店が復帰したのは、昭和31(1956)年のことである。

中2階がある店舗のデザイン。その当時、横浜で洋書を本格的に扱っていたのはY堂くらいだったという。今でいうY堂ギャラリーの発想に近いものがあった。

昭和30年代、洋書は大きな木箱に入れられて船便でやってきて、横浜の倉庫に収まった後、Y堂に運ばれた。

そのとき、高倉さんのスマホが鳴った。

「はい、高倉です。ああ、竹早高校テニス部のパーティ、横浜異人館を予約してくれたのね。場所はネットにも出てないから、伊勢佐木町にあるY堂本店の1階で待ちあわせとしよう……会費5000円で飲み放題って、いいんじゃない」

高倉さんが、篠辺さんに目で合図をする。二人は、竹早高校時代にダブルスの名コンビとしてならし、都大会でも活躍した歴史がある。

高倉さんがスマホから耳を離したので、吉岡さんはY堂について語り始めた。

 

■そして容疑者全員が揃った

 

飯田橋にある吉岡さんの会社に集まったのは、アルバイト探偵の東島君、それに容疑者の吉岡さん、篠辺さん、高倉さん。

東島君は、ストーリーの都合上、ここに容疑者全員が集まってくれれば話ははやいと思っていたところ、都合よく中村さんが顔を出した。

高倉さんが、ドヤ顔でつぶやいた。

「おいおい、また遅刻かよ」

「そんなことないよ。ここに集まろうって約束していたわけじゃないから。何時に来ても、遅刻じゃないよね」

「なるほど。で、君もやっぱり快答ルパン?」

「そう。これから横浜スタジアムに生ビールを飲みに、いや野球観戦でいくんだけど、気になって立ち寄ってみました」

「ナイターか。昨日は横浜が負けて」

中村さんがそこまでいいかけると、紅一点の容疑者が割って入った。

「泣いた……ですよね」

「あ、薩田さん。イタリアじゃなかったの?」

「そうそう、旅行ばかりしてはいられません。わたしもY堂の歴史に興味があります。人にも会社にも、書店にも歴史があるのね」

容疑者たちは、再び、吉岡の話に耳を傾けた。

 

今も、Y堂本店のある伊勢佐木町界隈では、夕刻になると飲食店に灯りがともる。

カフェでは、二の腕からにかけて隠す七分袖のブラウスを着た女性が、生ビールのジョッキを豪快に傾ける。ツマミカジキのソテー。

もちろんバーのカウンターでは、一人静かにバーボンをなめる男もいる。

ちょっと癖毛の髪は長いが、地毛を丹念に洗っているのだろう、さらさらとして清潔感がある。その傍らにある小冊子には、武者小路実篤のによる『Y』の文字があった。

 

Y堂では、お客様とのコミュニケーションを図るため、昭和42(1967)年12月に広報誌を発刊した。

創刊号には「楽しい読みものとして、お客様とのコミュニケーションの役割を果たすために企画した」という挨拶文がある。

深夜。伊勢佐木町のカフェでY堂の広報誌を手にした女性が、とある洋館に帰っていく。

そこは江戸川乱歩の作品にでてきそうな建物でABCDEFGHI『○○○○○』と呼ばれている。

 

さて、名探偵諸君。ヒントは、すべて本文に隠されている。

『謎解きクロス9×9』を解いて、その言葉を語った容疑者を特定させていただきたい。

 

健闘を祈る!

 

 

 

 

 

 

2020年2月1日

日本初!下仁田町で英語版パズル小説を試作

2年前、神奈川県の黒岩知事から「謎解きクロスの英語版があるといいね」とアドバイスをいただきました。研究すること2年。英語は「難しい」と思っていた私ですが、下仁田町の商工会からオファーをいただき、ついに「謎解きクロス7×7」のパズル小説、暫定版、試作バージョンですが、完成しました。

以下、試作版をご紹介しましょう。

■What is a puzzle novel?パズル小説とは何か?

A puzzle novel is written using Nazotokicross. Nazotokicross is the crossword puzzle of a new type. The key word that solves a crossword puzzle is contained in the sentence of a problem in case of Nazotokicross.

(和訳)

パズル小説は、Nazotokicrossを使って、書かれます。Nazotokicrossは、新しいタイプのクロスワードパズルです。Nazotokicrossの場合に、クロスワードパズルを解くキーワードは、問題の文の中に含まれています。

■How to solve Nazotokicross Nazotokicrossの解き方

□Please read all sentences of a problem.

□Next, discover the key word which a typeface is different from in the sentence of a problem.

□A key word has 22 pieces in all.

□The key word of 5 characters is incorporated into the mass eyes of the answer that is in a center.

□Your mystery becomes the key word that you write in a vertical mass eyes.

□You put one of the key words of 5 characters in the vertical mass eyes there and try to put the remainder in the sideways mass eyes.

□You connect to 5 characters well and find the key word that applies to the mass eyes.

□Repeat the trial and error and gather the words of ABCDE if all key words connect.

□If the word of ABCDE has a meaning, it will become a right answer.

(和訳)

□問題のすべての文を読んでください。

□次に、書体が問題の文の中で違うキーワードを発見してください。

□キーワードは、全部で22個あります。

□5文字のキーワードは、センターにある答えのマスに組み入れられます。

□あなたのミステリーは、あなたが垂直のマスの中で書くキーワードになります。

□あなたは5文字のキーワードの1つをそこの垂直のマス目に入れて、残りを横のマス目に入れてみます。

□5文字とうまく接続し、マス目にあてはまるキーワードを見つけます。

□試行錯誤を繰り返し、すべてのキーワードが接続するならば、ABCDEの言葉を集めてください。

□ABCDEの言葉が意味を持っているなら正しい答えです。

■問題文

□Japan enters from this to the new times.

A new wind is blowing in Shimonita-machi, too.Shimonita-machi, too, is the small city that is in Gunma Prefecture.An abundant natural environment is left in Shimonita-machi.” Konnyaku ” and ” Allium ” are the specialty which Shimonita-machi can be proud of.From this, the small city that is in a district might attract public attention. I think that I want to try the various challenges in Shimonita-machi.

 

□We met in social networking service.It received from her the message of ” where do you think now that you are? ” when there was.I found the place where I am with a global positioning system.She came to the city where I was born and brought up.

 

□I met her for the first time at a golden week in Shimonita station.She of the blue eyes was in Shimonita station.She came from Los Angeles.I remember well.The design of the unisex bag that she has as with a remarkable personality as her and nice.She has the sense of saying a GAG.

I, too, think so.

 

□It is half year after meeting I decided the marriage with her.She loves reading and spends all of the money on a book.The puzzle novel of the title of ” gather the ye rosebuds while there may be “, too, is her favoriteness.I don’t know who wrote this charming puzzle novel.A wedding was done on Dec.15th in the inn of Shimonita-machi. In a honeymoon, We went to Greece and stayed at a white hotel in a seafront.

 

□Do you know an artificial intelligence

From this, it is said that they are the times of AI.It is a central processing unit that is important with a personal computer.I want to record my experience to a SD memory card.I do the carbon copy that recorded a document.

I combine TA(terminal adapter)with a personal computer and get on the Internet.We think that we want everyone all over the world to know the nice happening by Shimonita-machi that I experienced.

(和訳)

□これから日本は、新しい時代に入ります。下仁田町にも、新しい風が吹いています。下仁田町も、群馬県にある小さな町です。下仁田町には豊かな自然環境が残っています。下仁田町が自慢できる名産品は「こんにゃく」と「ネギ」。これからは、地方にある小さな町が、人々の注目を引くかもしれません。私は下仁田町で、いろいろなチャレンジをしたいと思います。

□私たちは、SNSで出逢いました。ある時、彼女から「今、どこにいると思いますか?」というメッセージを受け取りました。私は、GPSで、自分がいる場所を見つけました。彼女は、私が生まれ育った町に来ていたのです。

□ゴールデン・ウィークに、私は下仁田駅で初めて彼女と会いました。青色の目の彼女は下仁田駅にいました。彼女はロサンゼルスから来ました。私は、よく覚えている。彼女の持っている男女両用バッグのデザインは、彼女と同じくらい個性的で、ステキだった。彼女には、ギャグを言うセンスがあります。私もそう考えます。

□私が彼女と結婚を決めたのは、会った半年後です。彼女は読書が大好きで、本にお金のすべてを費やします。「バラのつぼみは摘めるうちに摘め」というタイトルのパズル小説も、彼女のお気に入りです。このおもしろいパズル小説を、誰が書いたのか私は知りません。結婚式は下仁田町の宿屋で12月15日にされました。新婚旅行で、私達はギリシャに行き、海岸通りの白いホテルに泊まりました。

□あなたはAI(人工知能)を知っていますか? これからは、AIの時代だと言われています。パソコンで重要なのは、中央演算装置だ。AIで重要なのは、何でしょうか。私は、SDメモリカードに私の体験を記録したい。あるいは、文書を記録したコピーをとっておきたい。私はTAをパーソナル・コンピュータと結合し、インターネットに接続します。私が体験した、下仁田町でのステキな出来事を、世界中のみなさんに、知ってほしいと思っています。

2019年7月14日

パズル小説 快答ルパンの冒険(予告編)

【日本初・パズル小説】について

□パズル小説は、廣川が開発した謎解きクロス®というパズルを使った小説で、本稿『快答ルパンの冒険』は、篁会同窓会サイトのため、特別に書き下ろしたものです。全体のタッチは江戸川乱歩調ですが、パズル小説は子どもから大人まで、個人でもカップルでも家族でも安心して楽しめるようエロ・グロ禁止となっています。

□快答ルパンは、廣川が書くパズル小説の舞台として設定された探偵@ホームズ事務所のライバル。探偵@ホームズと知恵比べをする快答ルパンは、いつも難しい問題を何題か提示します。そして、たいてい五人の容疑者も提示され、犯人を誤認逮捕しないように調査し、その解答から一番心地いい「快答」をした人を、真犯人とする内容となっています。

□快答ルパンの冒険は、原則として毎月1回、気が向いたときにアップする予定で考えています。ちなみに、その問題は謎解きクロス®9×9を使った本格的なパズル小説となります。本稿は、謎解きクロス®7×7を使った簡易版のパズル小説で、これから始まる楽しい謎解きストーリーの予告編となっています。

 

■予告編

※以下のパズル小説は、竹早高校同窓会のサイトで2019年8月から毎月連載される予定の原稿を、広く一般読者にも開放し、併せてアーカイブとして保存することを目的に掲載いたします。

※今回は、予告編で、謎解きクロス7×7のバージョンです。

ある晴れた日の朝。

「大変です! 池野所長、起きて!」

と叫んだのは、アルバイトで探偵の助手をしている、大学生の東島君。

そこは東京・渋谷にある雑居ビルの一室。玄関に『探偵@ホームズ』という看板のある小さな事務所である。

もっとも探偵といっても、その事務所では殺人などの凶悪事件や夫婦ゲンカなどのややこしい事件を調べることはしない。

彼らの専門は、地域の文化や歴史、魅力が失われたという謎を解明することで、のない話が大半だ。心のをえぐることもないので、痛みもなかった。

「篁会の大森さんから、電話が!」

池野所長は、大きく伸びをして聞いた。

「どうしたの? まるで快答ルパンでも表れたような顔して」

「え? どうしてわかったのですか」

「それは、東島君。ミステリーウォークで使うパズル小説の出だしは『大変です!』で始まり、快答ルパンが難題を出すものと決まっているからさ」

「あ、恐れ入りました。今回も、あの快答ルパンが、凄いものを盗んだようで」

東島君の言葉を、池野所長は真顔で制した。

「それから先は、私が推理してみせよう。快答ルパンは、国民的テレビドラマの人気を盗んだに違いない。そこで困った大森さんが、後輩の東島君に相談してきた」

「さすが所長。よく、そこまで推理できますね」

池野所長は、東島君から手渡された珈琲を飲みながら、満面の笑みで応えた。

「それはね……大森さんが、とてもステキなレディだからさ。もう少し私が若かったら、きっとがけのにおちていたな。あぶないところだった……」

「所長、それって理由にならないような……」

実は、事務所で受けたメールは誰のメルアドでも、一度事務所の通信サーバーに入り、それから個々に配信されるシステムになっている。

すなわち池野所長は、スタッフならプライベートメールでも、事務所内に来たものであれば読みたい時にチェックできた。

それで東島君が「大変だ!」と叫ぶ少し前に薄目をあけ、スマホに転送されてきた東島君あてのメールを読んでいたのである。

「そんなことより、詳しい状況を報せてほしい」

実は、軽い老眼の池野所長は、細かい文字を読むのが苦手で、だいたいのことがわかったら細かいところは読まなかった。

「快答ルパンなら、相手に不足はない。今度こそ、快答ルパンの一味を、ひとあみ大臣にしてみせよう」

「ひとあみ大臣? 何ですか、それ」

「え? 知らないのか。をパッと投げて、魚を群れごとつかまえることだ」

「それって……一網打尽のことですか?」

「ん? そうともいう」

東島君が、大森さんからの依頼内容をまとめると、以下のようになる。

仕事でテレビ局に出入りしている大森さんは、竹早高校の先輩にあたる別次プロデューサーに呼び出された。

日ごろから

『いい仕事があったら紹介してね』

とお願いしていたので、その話と思ったが、渋谷にある国民的テレビ局食堂の片隅で、ヘルシーな大豆のサラダを食べながら聞いた話は、とても深刻なものであった。

快答ルパンは、篁会の発展にとって大問題となる、あるモノを盗んだという。

ちなみに彼は、あの怪人二十面相のように、誰かに成りすます名人だ。彼の変装は、本物と区別がつかない。どんな地位の人でも、そっくりに真似ることができた。

今回、彼が成りすましたと思われる人物は、以下の五人に集約された。どうしても、それぞれの人物に会い、知恵比べをして、真相をあぶりだす必要があった。

【容疑者】

□吉岡新鮮さん……新鮮な記事を書くジャーナリスト

□篠辺修業さん……天気予報を伝える人気キャスター

□高倉孝匠さん……甲子園を目指す野球チームの監督

□中村光臨さん……清里の野菜で作る和食料理の達人

□薩田美子さん……イタリア直輸入の雑貨店オーナー

 

池野所長に頼まれた東島君は、探偵@ホームズ事務所を出て、工事中の建物が林立する渋谷駅周辺の聞き込みに向かった。

 

渋谷ヒカリエの喫茶コーナーには、新鮮な記事を書くことで知られているジャーナリストの吉岡さんがいた。

「吉岡さん、こんにちは」

「おう、探偵@ホームズ事務所の東島くん」

「ごぶさたしています。吉岡さん……本物ですよね」

「え? なに言ってんだか。どうした? 失恋か」

「それは、違います。快答ルパンが盗んだものに、心当たりはありませんか?」

「知らないけど、小枝などのスナック菓子もいいけど寒天を使った和菓子もいいよ」

 

渋谷ストリームの川沿いには、天気の予報を伝える人気キャスターの篠辺さんがいた。

「篠辺さん、こんにちは」

「おう、東島くん」

「篠辺さん……快答ルパンの手先じゃないですよね」

「え、どうした? 腹へっているのか」

「それも、違います。快答ルパンが盗んだものに、心当たりはありませんか?」

「知らないけれど、飲みにいこうか。今宵の食事は海老天にしよう」

 

渋谷区立の植物園には、甲子園を目指す野球チームの監督である高倉さんがいた。

「高倉さん、こんにちは」

「おう、未完の大器と呼ばれる東島くんじゃないか」

「高倉さん……スマホで何を観ているのですか」

「体操のビデオだよ。どうした? 元気ないな」

「それは、大丈夫。快答ルパンが盗んだものに、心当たりはありませんか?」

「知らないけれど、この選手はバク転で三回転。ハンパないだろう」

 

新しくなった渋谷区役所のロビーでは、清里の野菜で作る和食料理の達人である中村さんが涼んでいた。

「中村さん、こんにちは」

「東島くんじゃないか。珍しいね」

「中村さん……視聴率のこと、ご存知ですよね」

「ぼくだって竹早卒業生、そのくらい知っているさ」

「なら、教えてください。快答ルパンが盗んだものに心当たりはありませんか?」

「どうかな。それより、いだてん、いいドラマだよ。東島君も、このドラマを観れば人間のクズにならなくて済む」

 

最後に駅前のスクランブル交差点に行くと、パワースポットである金王八幡宮で巫女の職も兼務しているイタリア直輸入の雑貨店オーナーの薩田さんがいた。

「薩田さん、こんにちは」

「あら、東島くん。元気?」

「薩田さん……まさか、手先じゃないでしょうね」

「そんな、バルサミコでも舐めたようなこといわないで」

「失礼しました。快答ルパンが盗んだものに、心当たりはありませんか?」

「図書館に行って、頭を冷やして図鑑で調べたらいいわ。ほら頭寒足熱……どうしたの、東島君。目が点になっている」

 

容疑者の全員と会った東島君は、池野所長に連絡を入れた。

『五人の調査が終わりました』

『お疲れさま。何か、つかめたかな』

『はい。快答ルパンは、どうもテンに関係している気がします』

『それはいい点に気づいたね』

『かんてん、えびてん、ばくてん、いだてん、めがてん……。きっとこの中に、快答ルパンを盗んだもののヒントが隠れている気がします』

『なるほど。その中に、視聴率を上げたいと努力している真犯人がいるに違いない』

 

【挑戦状】

□これで、問題編は終わりです。ヒントは、すべて問題文の中にあります。謎解きクロスを解き、容疑者の中から真犯人を探してください。健闘を祈る!

【ヒント】

【予告編】(縦 6) 【一味】(縦 8) 【区別】(縦 9)

《今宵》(横 5) 《知恵比べ》(横10) 《天気》(横14)

2019年7月6日

この短歌の作者は誰?<5>

■ぼくらは竹早探偵団

太古の昔から、自然も人間も、そうそう変わるものではない。は、昔も今も街を覆うし、蛸の足は8本で、烏賊の足は10本だ。

明智小五郎の活躍していた明治時代と今では、100年しか違わない。

明治も平成も、季節には春夏秋冬があり、桜には河津やソメイヨシノなどの種類がある。

パンは小麦から作り、寿司の銀シャリはからつくる。

悪人を退治する明智小五郎の助手に『少年探偵団』があったように、快人五面相にも仲間が必要。それを『竹早探偵団』と呼ぶこととしたい。

明智探偵は、警視庁に強いコネがあり、交通事故を起こしても大目に見てくれる。

怪人二十面相も、犯罪者でありながら、とても稀有な存在だ。

ボルネオやビルマから戻った人物にすり替わり、警備の者がたくさんいるなかで、宝石を奪っていく。

してやられた大金持ちは、失意のまま眠りにつくことになる。

快人五面相には会津の生まれで、古風なところがある。

もし、読者が勤めを休んで、近くのに渡って休暇を楽しむときには、パズル小説を持って出かけていただきたい。

そしてギアをトップに入れて、謎解きを楽しんでほしい。

三浦しをんが書いた『舟を編む』という小説は、コツコツと辞書を編纂していく人の物語だが、パズル小説でも、コツコツと謎解きをしながら読むという、ある意味では地味な作業が必要となる。

それでも、竹早探偵団の活躍には、きっとわくわくするはずだ。最後は読者諸君の胸を打つ結末が待っているのだから。

竹早高校で青春時代を送った仲間は、篁会で人生の探検にでる。

2019年3月2日

この短歌の作者は誰?<4>

■快人五面相の誕生

いくらする江戸川乱歩先生の『怪人二十面相』の著作権が切れているとしても、それをそのまま活用するのは忍びない。作家魂が、泣く。

謎解きクロスもパズル小説も、ただの言葉ではあるものの、その背景には『まだ誰も生み出したことのない作品を創造する』という大志がある。

私も江戸川乱歩先生を尊敬し、を感じてはいるが、ただの隠し芸で終わりにするわけにはいくまい。これは人としての品(ひん)格の問題だ。

たとえば遠い外国、孤立するに10名の仲間が集められる。

そこで謎の図画に書かれた暗号の通りに、次々と殺人が……。

登場人物が、それぞれ知恵を出し合って実業家美人お供を守ろうとするストーリー。殺されるときに何か合図をしている死体。

晩餐のシメに食べたもやしソバも、きっと何か意味があるのだ。ただ、いくら秀逸なミステリーを書いても、その根本的な謎解きのコンテキストが、あの作品に似ていたらアウトだろう。アガサ・クリスティの作品と設定が似ている。

それはのすること。モノマネであり、これでは日本国内で通用しても、外貨を稼ぐことはできない。

檸檬という短編で、梶井基次郎は富士山の形ではなく重さを語った。作り物の模型などにはない大自然の重さ。

暖をとる火鉢は、で包めば持ち運びができる品(しな)だが、冨士山は動かない。運べない。その重さを感じたいという梶井基次郎。

そこで登場するのが、怪人二十面相ではない真逆のキャラクター。それを私は快人五面相と呼ぶことにする。彼の好きな音楽はジャズではなく演歌だ。

事件を起こしては、ゴメン、ゴメンと謝る、気が弱いスーパースター。それがパズル小説の主人公なのである。

2019年3月2日

この短歌の作者は誰?<3>

■江戸川乱歩は、天才である

昭和30年代の暮らしでは白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫という家電3品目が三種の神器と呼ばれ、日本は高度成長に突き進んだ。

住めばという。都市はスモッグでつらかったが、クルマ・クーラー・カラーテレビが新・三種の神器となり、私たちは一億総白痴時代を迎える。正月に遊ぶカルタで、『さ』は三種の神器だった。たぶん。

さて、江戸川乱歩の小説が書かれたのは100年前という過去だが、怪人二十面相がテレビや映画で活躍したのは、そんな時代である。

あのころを知っている人なら、誰でもを澄ませば聞こえてくる。

ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団~モノクロのテレビ画面で、の中から突如として現れる怪人二十面相。

怪人を追うのは、名探偵の明智小五郎。彼は、事件を解決すると片目をつむってウィンクをする。いぶし銀のイケメンである。

大粒のダイヤモンドで細工をした王冠は、二十面相の福の神だ。王冠の在り処は、知らぬ間に、怪人二十面相の知るところとなる。

怪人は、変装の名人なので誰が味方かわからない。雄弁な人も寡黙な人も、みんな怪しい。廊下を、がすりで忍び寄ってくる。

そして王冠を盗むと、これまで着ていた衣服を脱ぎ捨て、山登りが得意なのだろう、窓から屋根に乗り、屋敷を出て、庭に打ち込んだ、を倒し、花壇の中をまっしぐらに駆け、を立てて塀を乗り越え小路に入る。

ここまで一分もかからない。まさにの仕業だ。

怪人二十面相の住む屋敷の居間には地下にある隠れ部屋へ降りる階段がある。謎めいた姿は超イケメンで、誘拐された大金持ちの御令嬢もめまいがするほどだ。そして一瞬でに落ちる。

2019年3月2日

この短歌の作者は誰?<2>

■江戸川乱歩の『怪人二十面相』

子どものころ、といっても昭和30年代後半のことだが、我が家にもモノクロのテレビがあった。いくつかの番組を強烈に記憶している。

の光を浴びて登場する月光仮面は、『どこの誰だかしらないけれど誰もがみんな知っている』なのだが、二十面相は、誰にでも変身するので、どこにいるのか、わからない。

何となく怪しい空気を持つ人物がいるだけである。

怪人二十面相は、無敵だ。いつも、騙されて恥をかくのは警察側。そこに登場する名探偵の明智小五郎、同じの仲間で少年探偵団をつくっている小林少年は、気長見張りをする役が似合っていた。

子どもなのに、とても我慢強い。

その二十面相は、盗賊だけれど、人殺しはしない。の延べ棒や宝石、名画などを盗む。あらかじめ盗みに入る地区やお屋敷を指定するので、財宝の所有者はを高くして眠れない。

そんな怪人二十面相の私生活は謎だが、優しい男で、ベランダでは葉肉植物を育て、死んだ恋人のためにを育てている。

好きな食べ物は焼肉。ラムキムチが大好きらしいが、辛いものばかり食べていて味覚は大丈夫なのだろうか。

明智小五郎に追い詰められた思いがけない人物は、突如として顔が破裂するかのように歪み、内側から気迫にあふれた怪人二十面相の真の顔が現れる……と思ったら、その顔は明智小五郎だったりする。

怪人二十面相が鼻をかむと、なんだか人生の重みが感じられる。

怪人は、たとえつかまってに収監されても、いつの間にか脱出している。彼に、不可能はない。

そんな怪人二十面相の物語のが、いよいよ開くことになる。

2019年3月2日