謎解きクロスは、ミステリーウォークの問題を作成するときに、「誰も死なない」ことによる興味関心の欠如を補い、本格推理小説のように「謎解きの楽しさ」を際立たせることを目的として、生まれました。
2008年の秋に、赤坂サカスで行われたミステリーウォークの実証実験では、赤坂という文字をローマ字にしたときにAKASAKAと、たまたまローマ字の回文となっていたことから、謎解きのベースを作りました。
これは、これなりに評価は高く、ローマ字の回文だったとわかったときには「凄い!」という絶賛の声も多々、いただきました。それで、ローマ字の回文になる言葉の「辞書」をつくり、これでミステリーウォークの小冊子をシリーズ化できると、大いに期待したのです。
シリーズ化に際しては、一つ、工夫をしました。
実は、ミステリーの小冊子の原稿は、最初は放送作家の源高志さんに書いてもらっていました。伊豆下田では、小冊子までいかなかったので、私が書いたのですが、翌年に実施した西小山ミステリーツアー(当初はツアーと呼んでいました)では、源さんと二人で西小山を取材し(すなわち昼間から飲み歩き)原稿を委託していたのです。
しかし、よくよく考えると、AKASAKAなどのローマ字回文を使った謎解きと、ミステリー小冊子がリンクしていません。ミステリーも、ローマ字回文で進められたほうが、楽しいはず。
そう考えて、2010年からは、ローマ字回文を使った謎解きのミステリーウォークがスタートしたのです。それが、前にふれましたが、かつうらビッグひな祭りでの「クロスワードパズルを使った謎解き」につながるのです。
そして、私がミステリーの原稿を書くときに、いくつか、決めたことがあります。私は、ビジネス書は30冊ほど書かせていただきましたが、小説では「いつも予選落ち」という、さみしい人生をへてきた人間。たぶん20回くらい応募して、一次予選通過が数回あるくらいで、結果がついてこなかった。ジャンルは純文学からエンターテインメントまで。
もっとも、たとえばキャッチコピーとか、兵庫とか、アイデアとか、ショートショートのようなものは、逆に常連といえるくらい、絶賛されていたりもしました。ただ、小説の壁が高く、厚く、いつも門前払い。
でも、ミステリーについては、何となく「書ける」という自信がありました。というのもトリックや謎解きについては、アイデアが無尽蔵にわいてくるからです。ほとんどが、すでに世に出ているものを、自分の脳だけで作り出したケースなんですが、1000に3つくらい、オリジナルのアイデアもありました。実用新案登録をしたことも、二十歳のころですが、ありました。若気の至りでもあったのですが。
ちょっと脱線しました。
私が「誰も死なないミステリー」を書くとしたら、こうしようという決め事がありました。
①舞台は、日本橋の雑居ビルにある「探偵@ホームズ事務所」です。
②いつも、スタートは「大変だ~」から始まり、仮眠をとっていた池野所長を、助手が揺り起こすところから始まります。
③謎解きのパターンは、いつも一緒。最初は「ローマ字の回文」でしたが、「クロスワードを解く」という謎解きになり、これからつくるミステリーはすべて「謎解きクロス」のパターンとなります。
そうです。私はミステリー作家ではありません。そういう人間が、小説を書くのですから、これまで発表されてきた、どんなミステリーとも被らない、オリジナリティが必要となります。
今、日本に推理作家は約500人。そのうち、小説を発表することで食べていける推理作家は1割の50人といわれています。そのみなさんの経済基盤をゆるがすのは、本意ではありません。そのみなさんにも、大いに活躍してほしい。ただ、小説という世界、業界は、明らかに、血で血を洗うレッドオーシャン。
私は、本業はコンセプトデザインの制作。すなわち新規事業開発専門のコンサルタントをしているのですが、新規の場合は、レッドオーシャンは勧めません。まだ、だれも踏み込んだことのない、ブルーオーシャンに漕ぎ出していくことを勧めるのです。そのときに、コンセプトデザインが重要になります。
謎解きクロスは、ブルーオーシャンに進む、コンセプトデザインなのです。
私の書くミステリーは、今までの推理作家さんが書かなかった、地域に根差した物語です。だから、地域活性化に役立つのです。
その特長は、さらに加えれば、こうなります。
④実在する地域と、そこで生きるリアルな商店街などがモチーフとなります。容疑者も実在すれば、真犯人も実在します。ただ、誰も死なないミステリーなので、容疑者は地域活性化を推進する人ですし、真犯人は、とってもいい人になっています。
⑤謎解きの解答は、地域のみなさんが決めることができます。謎解きクロスは、当然ながら「解答」から問題を作成するわけですが、その「解答」を、地域のみなさんが決められるという仕掛けが、当然ながら、このモデルの最高の利点なのです。
ということで、謎解きクロスによるミステリーウォークでは、出だしはいつも、こんな感じで進みます。
ある晴れた日の昼下がり。
「大変だ! 池野所長、これを見てください!」
という叫び声が上がった。
そこは東京の日本橋にある雑居ビルの一室。玄関には『探偵@ホームズ』という看板がかかっている。
もっとも探偵といっても、その事務所では殺人などの凶悪事件や、夫婦ゲンカなどのややこしい出来事を調べることはしない。彼らの専門は文化や歴史、自然、人間の魅力が失われたという難事件を解決することだ。
「また、解答@ルパンから挑戦状がきています!」
アルバイトの伊藤君は、所長に封書を見せた。
「これは、確かに解答@ルパンのメッセージだ」
便箋には胡蝶【蘭(らん)】(縦3)のマークが押されていた。それは解答@ルパンのメッセージが本物であることを証明している。二人は、無二の親友なのである。
登場人物には、途中から「解答@ルパン」も入ってきました。これは、やはり謎解きを楽しくするための仕掛けです。
さて、ここまで書いてきたことが、謎解きクロスによる「ミステリーウォーク」の、おおまかな歴史と、その考え方となります。
ところが、この謎解きクロスの開発物語は、ここで終わりません。なぜなら、ミステリーウォークを出自としている謎解きクロスなんですが、これまで誰もアプローチしてこなかったブルーオーシャンの世界ゆえに、ミステリーウォークを離れて、謎解きクロスそのものが、一人立ちできる可能性に気付いたからです。
その物語は、2年前の冬、高円寺で福田さんに会ったことから始まります。そう、この謎解きクロスのサイトを作成してくれている、ふくちゃんです。
つづきは、また次回に。