パズル小説®作家は、本格ミステリ作家になれるか

このエントリーをはてなブックマークに追加

本日は、コピペさせていただきます。著作権法に違反しそうなほど、そのものずばり。評論なしの全文引用。でも、有栖川有栖さんの文章を勝手に変えることもご法度ですし、ここは、原をくくって違反に踏み込みましょう。

さらなるジャンル的発展を目指した船出に祝福の風を
                  有栖川有栖


 欧米の古今のミステリ事情に詳しい森英俊氏とご一緒した折、かねてより疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「近年、イギリスでも本格ミステリが人気だそうですけれど、あちらでは本格もののことを何と呼ぶんですか?」
 パズラーという言葉を知っていたが、私はそれを日本人以外が使うのを読んだり聞いたりした記憶がない。この素朴な質問に、森氏は即座に答えてくださった。
「イギリスでは、クラシカル・フーダニットと言っています」
 なるほど、と思った。古典的犯人探しでは本格ミステリの一部しか指していないようではあるにせよ、日本で定着している本格という抽象的な呼称よりはイメージがはっきりしている。しかし、クラシカル・フーダニットの中身は、本格ミステリと完全に合致しているのでもあるまい。はたしてどこまで同じで、どこから差異が生じるのだろうか?
 いや、その前に。そもそも日本で言う本格ミステリとはどういう小説のことを指しているのか? その答えは、ミステリファンの数だけ存在するはずだ。名探偵と名犯人の知的闘争を描いた謎解きの物語であるとか、犯罪が論理的に解明されるプロセスを愉しむ物語であるとか、何らかの形のトリックが仕掛けられた物語であるとか。本格ミステリの雰囲気を持った小説が本格ミステリである、という同語反復的な見方さえありそうで、万人が納得する定義づけは難しい。
 それでも確かなのは――本格ミステリがある、ということ。「本格ものは古いタイプの小説で、それに拘ることはミステリの可能性に背を向けることだ」とか「本格は煮詰まりきっていて、そこには未来がない」と否定的な論を唱える声は幾度も耳にしたけれど、本格ミステリの存在を打ち消せた者はいない。
 現代のわが国のミステリ・シーンは非常な活況を呈し、様々なタイプの作品が百花繚乱である。存亡の危機に立っているかのごとく見られた時期がある本格ものも復活を遂げ、オールドファンの渇を癒すだけでなく、新しい読者を多数獲得することに成功した。セールス面のみならず、広義のミステリ作品が文学賞を受賞することも珍しいことではなくなり、ミステリに対する読者の注目度はかつてないほど高くなっていると言えよう。
 これを好天・順風ととらえ、私たちは本格ミステリ作家クラブ(準備会)を発足させ、船出することにした。作家が孤独を紛らわすためにより狭く群れるのではない。本格ミステリと呼ぶべき小説の、さらなるジャンル的発展を目指した結集である。具体的な目的は、本格ミステリ大賞(仮称)を創設し、年間の最優秀作品を表彰すること。既存の文学賞が乱立する中においても、本格ミステリとしての評価を第一義にした賞の制定には大きな意味があると信じる。ここに本格ミステリと呼ぶべきものがあるのだから。そして、私たちは、そのような賞を設置・運営することによって、本格ミステリ全体のクオリティが向上を果たし、その作品がより広範な読者と出会えるようになることを期待する。
 幸いにも、十七人の発起人の呼びかけに望外に多くの方々が参加の意思を表明してくださり、別掲のとおり錚々たる顔ぶれが揃った。機は熟していたのだ。もちろん、現時点で準備会が声をかけられずにいる方もいるし、これから本格ミステリの筆を執る未知の書き手の名は名簿にない。まだ、始まりが始まろうとしているところだ。だから、私たちは本格ミステリの現在・過去・未来を探す旅をともにする仲間のより多くの参加を希いつつ、錨を上げて港を出ることにする。
 本格ミステリを愛するすべての方へ。どうかこの船の終わりのない航海を見守っていていただきたい。そして、祝福と恵みの風を送られんことを。

《参考》
本格ミステリ作家クラブ、設立時の発起人
•我孫子武丸
•綾辻行人
•鮎川哲也
•泡坂妻夫
•有栖川有栖
•折原 一
•笠井 潔
•北村 薫
•京極夏彦
•竹本健治
•二階堂黎人
•西澤保彦
•貫井徳郎
•法月綸太郎
•皆川博子
•山口雅也
•山田正紀

2020年4月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : wpmaster