謎解きクロス開発物語<8>

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謎解きクロスの原点をさかのぼれば、1982年、角川春樹氏が大藪春彦を担ぎ出して謎解きを仕掛けた「黄金を探せ!」にたどり着きます。

たぶん、秋。新500円銀貨が発行されるというタイミングでした。朝日新聞の全面を使って「黄金を探せ!」という告知がなされました。

そこには、暗号が出ています。記憶もうすれているので、ちょっと端折りますが、暗号を解くと「ベルタルべ」となります。このベルタルべは、シンブンシのような「回文」となっていました。

葉書に「ベルタルべ」と書いて角川書店の事務局に送ると、「黄金を探せ」というイベントへの招待状が来ました。ある日曜日、10時に山手線に乗りなさいという指示。

仲間を募って、探索の準備をして乗り込むと、ラジオの周波数が、中刷り広告に記してあります。それに合わせると、ラジオの広告。それをヒントにして、解答を「大井競馬場」と解いた私たち4人は、ちょうど目黒あたりにいたので、品川に出て、京浜東北で大井競馬場駅で降りました。

まだ、50人くらいしか集まっていませんでした。そこで問題を受け取り、都会の街を、地図を読み解き、暗号を読み解いて歩きます。

街歩きをしながら、ヒントポイントにたどり着き、そこでヒントをゲットして、謎解きをして、次に進む。そうです。謎解きクロスによるミステリーウォークと同じ仕掛けを、角川春樹氏のチームが、1982年に、すでに実現していたのです。

まず、大きな暗号文を解き、それから10カ所くらい歩いて、細かい暗号を解きます。すると、新宿にできたばかりのアルタ前に、15時に集まれという解答でした。あとでわかったのですが、大井町競馬場で問題を受け取った人が10万人。そのうち、謎解きをしてアルタ前に集まったのが3万人。もちろん、新宿は東口のみならず、西口も、黄金を求める豆探偵であふれていました。

嫌な予感がしました。たぶん、アルタ前は黒山の人だかり。ヒントは、大きなビジョンから出されるに決まっていますが、それを群衆の中で観ていては、次のリアクションがとれません。きっと。

そこで、ヤマを張りました。理由はわからないけれど、電車に乗ることになるから、なるべく改札口の近くにいたほうが有利です。アルタのビジョンが観られる位置に陣取り、双眼鏡をのぞきながら、15時を待ちました。

と、60秒くらいのCMが流れます。私が目視した内容を、仲間が必死に書き取ります。すぐに謎は解けません。しかし私は「小田急線だ」と気づき、仲間三人に声をかけました。「走るぞ。ついてきて!」

小田急線の急行に飛び乗り、社内で、アルタで提示された暗号を解きました。とある駅で降りると、バスが停まっていました。すでに1台めのバスは、出てしまったとの説明がありました。バスには、ぎゅうぎゅうにつまって、100人くらい乗れるようです。整理券を受け取って、バスに乗りました。たしか、120番くらいだったと思います。

このときも、嫌な予感がしました。私たちは、他の誰よりも早く、小田急線に乗り込んだはずです。しかも、急行でした。私たちよりも早く着く電車はありません。それなのに、すでに100人も、黄金を探せというイベント会場に向かっているというのです。

とっても嫌な予感がしました。

バスが、もう一台、やってきました。ということは、300人で、2000万円の黄金の争奪戦が始まるのです。

イベント会場に行くと、テレビで見知っている、あの角川春樹氏が、待っていました。そこで、報告を受けました。角川氏は、マイクを取って、こんなことを語りました。

「みなさん、おめでとう。今、みなさんがたどり着いた駅には、3万人の参加者が集まって、パニックになっています。彼らには、もう黄金を探す権利がありません。黄金は、100万円を20本用意して、あの竹藪の敷地にかくしてあります。これから、ここに集まってきた300人で、黄金の争奪戦を行ないます。そこで、お願いです。本来、あの竹藪には20本の金の延べ棒が埋まっていましたが、そのうち2本を、今、小田急線の駅に集まってパニックを起こしているみなさんへの、敗者復活戦の賞品として使わせてください。いいですね」

そうしないと、パニックが収まらないのでしょう。私たちは、これから始まる金の延べ棒の争奪戦のことでアタマがいっぱいで、誰も、文句をいうこともなく、次の指示を待ちました。

私の近くにいたグループは、金属探知機を持参していました。金の延べ棒を、その道具で発見しようというのです。角川氏は、こういいました。

「さて、ルールを説明しましょう。竹藪には、整理番号順に、入ってもらいます。すなわち、番号の早いほうが有利です。また、ここには300人が集まっていますが、100人ずつ、制限時間20分で、探してもらいます。それぞれの100人に対して、6本の金の延べ棒が割り振られます。6本、すべて発見されたら、その100人は終了となり、次の100人に、竹藪に入ってもらいます」

やっぱり。金属探知機をもってくるべきだったか、と考えていたときに、角川氏は、こういいました。

「ところで、100万円の金の延べ棒ですが、さすがに、本物を竹藪に隠すわけにはいきません。そこで、同じ大きさ、形の、木でできた棒切れを隠します。それを見つけてください。あとで、金の延べ棒と交換します」

そうです。金属探知機が使えなかったのです。あちこちで、落胆の声。でも、それは、竹藪の中に入っていく、最初の100人の怒号でかきけされました。なぜかしら、黄金を探しに竹藪に入った参加者たちは、「オー!」という叫び声をあげて走りまわっていたのです。

そこで、私が目撃したものは、本当に、驚くべきことでした。

それは、あまりにも凄い出来事だったことが理由かは定かではありませんが、今では、誰も伝承していません。ネットにも、何の痕跡も残っていないのです。

生き証人は、ここにいます。

次回、私が目撃したドラマについて、ご紹介しましょう。

 

 

 

 

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