■江戸川乱歩は、天才である
昭和30年代の暮らしでは白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫という家電3品目が三種の神器と呼ばれ、日本は高度成長に突き進んだ。
住めば都という。都市はスモッグでつらかったが、クルマ・クーラー・カラーテレビが新・三種の神器となり、私たちは一億総白痴時代を迎える。正月に遊ぶカルタで、『さ』は三種の神器だった。たぶん。
さて、江戸川乱歩の小説が書かれたのは100年前という過去だが、怪人二十面相がテレビや映画で活躍したのは、そんな時代である。
あのころを知っている人なら、誰でも耳を澄ませば聞こえてくる。
ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団~モノクロのテレビ画面で、霞の中から突如として現れる怪人二十面相。
怪人を追うのは、名探偵の明智小五郎。彼は、事件を解決すると片目をつむってウィンクをする。いぶし銀のイケメンである。
大粒のダイヤモンドで細工をした王冠は、二十面相の福の神だ。王冠の在り処は、知らぬ間に、怪人二十面相の知るところとなる。
怪人は、変装の名人なので誰が味方かわからない。雄弁な人も寡黙な人も、みんな怪しい。廊下を、がすり足で忍び寄ってくる。
そして王冠を盗むと、これまで着ていた衣服を脱ぎ捨て、山登りが得意なのだろう、窓から屋根に乗り、屋敷を出て、庭に打ち込んだ、柵を倒し、花壇の中をまっしぐらに駆け、杭を立てて塀を乗り越え小路に入る。
ここまで一分もかからない。まさに神の仕業だ。
怪人二十面相の住む屋敷の居間には地下にある隠れ部屋へ降りる階段がある。謎めいた姿は超イケメンで、誘拐された大金持ちの御令嬢もめまいがするほどだ。そして一瞬で恋に落ちる。